小林耕平は90年代後半に名古屋のアートシーンを活発に牽引してきたアーティスト自営スペース「art space dot」の主要メンバーのひとりでした。近年では森美術館の『六本木クロッシング』展(2007)、東京国立近代美術館の『ヴィデオを待ちながら』展(2009)に参加するなど、精力的に活動している映像作家です。山本現代で2度目となる今回の個展では、『ヴィデオを待ちながら』展で発表した作品「2?7?1」を、更に推し進めた新作2点を中心に展示いたします。
小林耕平の作品は、2005年山本現代での個展から、以前みられた数字だけのタイトルや、それに代表されるように意味を剥奪/漂白した人の「影」の作品、どこでもあり/どこでもない場所を彷彿とさせる白いジオラマを盗撮カメラで撮影した作品や、意味のない不穏な行動を効果的に編集した映像など、ミニマルなモノクロ映像で完全に計算・コントロールし制作された以前の作品から、大きく転換しています。
それはあえて手ぶれを補正せずフレームをずらし、日常の瑣末なことに注目した、あたかも作品の運命をすべて偶然にまかせるような実験的な作品に着手したように見えます。
しかし小林の映像には、何気ないように見える風景のなかに、「しかけ」のような瞬間が施されており、作品の舞台となる街のなかでひそかにマジックショーが展開されているようです。ショーの小道具となるのは、丸められたアルミボール、スニーカーにつっかけたスリッパ、道端に立つペットボトルなど日常のモチーフです。今回の舞台はとある新興住宅地。そこで人物が即物的にゴミ拾いをしたり、草刈りをしたり、自転車に乗ったりしている映像が淡々と映し出されています。ごく普通でありふれた行為ですが、行為そのものと被写体がビデオカメラの前で意識的にそれらを行う時に生じる状態が、小林の舞台のなかで異質なものに変化しています。
小林は偶然の様に見えるありふれた状態が、作品の枠組みのなかで異質なものに変化する瞬間をとらえ、また、そうみえるように操っています。また、登場するものや行為そのものよりも、そこから派生するイメージによって新たに結ばれた関係性 ―何気ないモチーフにさえ感情移入をしてしまうような感覚― を描き出します。
きめ細かく計算され作られた以前の作品に比べると、現在の作品は結果に可能性を残し、作家のコントロール外にあるものにも存在余地を与えています。小林以外にもカメラマンを勤める人物がいることで、出演者でもある作家自身と撮影者との関係性が問われるなど、新しいアプローチがなされています。また、初期の作品より情報量が増え、意識的に観る者の集中をかき乱すことで、「思い通りにならないこと」を自ら演出しているのかもしれません。
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