「庭」と「室内」。どちらも人間の生活と切り離すことのできない空間として、西洋ではしばしば絵画に描かれてきました。キリスト教世界で「エデンの園」を起源とする庭は、現世から隔てられた楽園として、一方の室内は、日々の営みがなされる通俗的な場として表わされるのが一般的でした。
19 世紀のフランスにおける市民社会の成熟は、「庭」と「室内」、双方の空間に新たな局面を切り拓きます。ナポレオン三世のもと、セーヌ県知事オスマンにより進められたパリの大規模な改造事業は、市内各所に緑豊かな公園や庭園を生み出しました。同時期には、都市の外へ自然とのふれあいを求める動きもみられるようになります。都市に造られた庭と、郊外の自然において見出された庭は、印象派をはじめ、同時代の画家たちの作品に頻繁に登場するようになります。また、モネが「睡蓮」の連作を描いたジヴェルニーの庭やボナールが見つめ続けた身辺の風景は、「画家の庭」、すなわち画家が独自に絵画を追究する親密な空間としてとらえることができます。
ピエール・ボナール 《りんごつみ》
1899年頃、油彩/カンヴァス、168.0×129.8cm
ポーラ美術館蔵
19 世紀末、「室内」もその日常性や閉鎖性が強調され、絵画の重要な主題となります。室内装飾の模様を画面に巧みに採り入れたヴュイヤール、生活をともにする伴侶を描き続けたボナール、そして室内空間を装飾的構成へと昇華させたマティス。20 世紀に入ると、室内はただ画面に描かれるのではなく、画家に着想を与え、制作を根本からつき動かす空間となっていきます。
本展覧会では、「庭」と「室内」という日常の空間が、新たな時代の絵画制作とどのような関わりや結び付きをもっていたのか、そしてどのような表現を切り拓いたのかを紹介し、ボナールとマティスの画業を新たな視点から再考します。
アルベール・マルケ 《パリ、カルーゼル広場》
1910年、油彩/カンヴァス、65.1×81.1cm
ポーラ美術館蔵
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