メアリー・ブレアは多くの顔をもつ作家です。カリフォルニア水彩画協会の一員として水彩画を手がけ多くの展覧会に出品した美術家、アニメーションの世界でのアーティスト、そしてイラストレーター、デザイナー・・・。本展は、彼女の仕事を生涯に沿ってたどり、その全貌をご紹介するものです。
メアリーが活動を開始した時期は、いわば、アメリカ現代美術の形成期にあたります。1911年生まれの彼女は、いわゆる抽象表現主義の画家たちとほぼ同世代。彼女がロサンゼルスのシュイナード美術学院での学生時代に、メキシコの画家シケイロスが同校にて壁画制作を行ったことはこの時代状況を示す事例として示唆的です。当時、フィリップ・ガストンもその場にいあわせ、また、その壁画を見にジャクソン・ポロックも足を運びました。メキシコの画家を軸にアメリカの若い作家たちの創造の線が交差していたのです。
今日20世紀アメリカ美術というと、抽象表現主義を端緒とするような東海岸を中心とした美術が広く知られています。けれどもその一方で、同時期のアメリカでは、リージョナリズム(地方主義)と呼ばれる、自国の独自性をある種のリアリズムによって追求する作品も多く生み出されていました。社会状況を反映しつつ、自分たちを取り巻く日常の情景を描き出す作品群は、見る者にとっても身近で、当時の一大潮流となっていたのです。メアリーもまたこのような美術の影響下にあり、日常に取材した水彩画を多く残しています。
自画像 1934年©The nieces of MaryBlair
サンフランシスコ・ナイト1934年©The nieces of MaryBlair
本展では、この時期描かれた水彩画をご紹介します。水彩画はアメリカにおいて特に好まれている素材の一つで、イギリス由来の厳密な水彩に始まり、印象派などの影響も受けながら、それまでも多くの優れた作家が輩出されてきました。そのような中、1930年代のカリフォルニアでは多くの水彩画が生まれてきます。メアリーと夫のリー、そして多くの友人たちは、著名なイラストレーターや水彩画家を師とする中で、徐々に自分たちのスタイルを確立していきました。日常の情景を題材に、それまでの伝統的な技法から離れた、下絵を省いた大胆な構成や、すばやい筆捌き、コントラストの強調、大きな画面、といった特徴をもつ彼らの作品は、水彩画の技法に対する新しいアプローチとして「カリフォルニア・スタイル」と称され、1930年代から1950年代にかけて支持を集め、広く展覧されることになります。
レモネード・ガール1960年代©The nieces of MaryBlair
彼らはその一方で、大恐慌と西海岸地域の興隆という独特の環境により、当時急成長しつつあったアニメーションや映画制作の会社に請われ、その才能を発揮していきました。作家たちはいっそう新たな才能を発揮し、また制作者も彼らの技量によって質の高い作品を生み出すことができたのです。美術と産業が結びつくという状況は特にこの時代の西海岸美術にみられる一つの典型ですが、それは環境によると同時に、社会や人々と結びついた作品を描いてきた彼らの志向に沿うものであったように思えます。本展を通してご覧いただけるメアリーのさまざまな工夫や幅の広い取り組みはそれを示しているといえるでしょう。
本展により、彼女の多方面にわたる仕事とともに、またそれを通して、アメリカ美術の持つ幅の広さ、その多様さをあらためてご覧いただければ幸いです。
「ふしぎの国のアリス」コンセプト・アート1951年©DisneyEnterprise,Inc.
「イッツ・ア・スモールワールド」コンセプト・アート1964年©DisneyEnterprise,Inc.
展覧会公式ホームページ: http://www.ntv.co.jp/mary/
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