浜田知明は1917年に熊本県上益城郡高木村(現・御船町高木)に生まれました。
中学時代に絵画を富田至誠に学び、東京美術学校油画科に入学しますが、卒業した年に彼を待ち受けていたのは、戦争による軍隊生活でした。
絵をもっと描きたいという志半ばに戦場に送られた浜田は、「兵士たちはたいてい、ミケランジェロの彫刻を思わせるような素晴らしいポーズで死んでいた。」とのちに語っているように、すべての物事を絵のモチーフとして見る画家のまなざしですごします。そしてそのまなざしはまた戦争という極限状況における軍隊の矛盾や、人間の残酷さをもしかと見つめていました。
そんな浜田が戦後に選んだモチーフは戦争。そして戦争を一番的確に描くためにあえて選んだ技法が「鋭く、冷たい表現のできる」エッチングでした。
≪初年兵哀歌≫シリーズをはじめとする作品は世界的にも評価されており、2007年にはイタリアのウフィツィ美術館が作品19点を収蔵しています。
また戦争を扱った作品のみならず、その後も≪ボタン(B)≫や≪取引≫など人間社会や時代を鋭く洞察した作品を制作し、65歳からは新たに彫刻という表現手段も手にしています。
版画、彫刻作品を通していえるのは、戦争をはじめとする社会における不条理を、ただ辛辣に風刺するのでなく、時にユーモアをもって表現していることでしょう。その作品からは浜田の人間に対する深い関心と愛情がうかがえます。
かげ・見えない壁 2001年 ブロンズ
北九州市立美術館では、開館当初から浜田知明の作品を収集しています。
平成20年度に浜田知明氏本人から彫刻作品19点の寄託を受け、当館のコレクションはより充実したものとなりました。
モノクロームの小さな画面から響く、果てしなく、どこまでも強いメッセージを、当館コレクション約170点から感じ取っていただけたらと思います。
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