塩田千春(しおた ちはる)1972年大阪府生まれ、現ドイツ・ベルリン在住
塩田千春は京都精華大学で彫刻家・村岡三郎の指導を受けた後、1996年ドイツに渡り、ブラウンシュバイク美術大学でマリーナ・アブラモヴィッチに、ベルリン芸術大学ではレベッカ・ホルンに学びました。
現在はドイツ・ベルリン在住で、ヨーロッパを中心に精力的な活動を続けています。
塩田は幼い頃から自己を取り巻く世界を敏感に感じ取り、ベルリンに移ってからも戦争と歴史に翻弄された町の「生と死」の壮絶な記憶を自ら感じ刻んできました。彼女は蓄積された「生きることへの不安」を、決して逃避することなく不安の直中へその身を沈潜させ作品へと昇華させています。
2000年以降、目覚めの瞬間に寝室が漆黒に編み込まれたように感じたことから、ベッドが置かれた部屋中を黒い糸で張り巡らすインスタレーション作品を発表しています。
2001年横浜トリエンナーレで発表された「皮膚からの記憶」は、吊された長大なドレスを泥水で洗い流し続けるという、身体にまとわりつく不穏な感情を作品化した衝撃的なものでした。
精神世界に深く浸透する作品は高い評価を得て、2002年にフィリップモリス・アートアワード大賞を受賞、さらに2007年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞しています。
2008年には、2000足の靴を赤い糸で結んだ作品「大陸を越えて」ほか、国立国際美術館において大々的な個展を開催し注目を集めました。
塩田千春 「不確かな日常」 2002年
ベッド・タイル・泥・水・シャワー
H2.7×7×5m
KENJI TAKI GALLERY/TOKYO
photo:Tetsuo Ito
今回発電所美術館における個展では高い天井高を活かし、使われなくなった病院のベッド約30台を天井から吊るしシャワーで洗い流すという、大規模なインスタレーションによる新作を計画しています。
美術館の立地する黒部川扇状地から湧き出る水を想わせる、扇状に斜めに吊るされたベッドには、伝うように「命の水」が流れるイメージを作品化します。
時の蓄積した元水力発電所で、その空間に潜む不穏な雰囲気を作家が増幅し、見る者を非日常の世界へと誘います。
現代人が抱える「不安」をアートの世界で美しく昇華する塩田の作品は、低く垂れ込めた雲間に光が射すように、人々が絶望と希望の狭間を覗く想像の世界を創り上げるのです。
天井からなだれ落ち、あるいは天に昇るようにも見えるベッドは、相反する「生」と「死」という人々の逃れられない永遠のテーマを考える場となることでしょう。
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