伊丹が酒造業の地として栄えた江戸時代、海を隔てたヨーロッパでも都市の発展とともに新たな酒文化が生まれ始めました。
ロンドンでは18世紀中頃から貧富の差が拡大にするにつれ酒文化も多様化します。
従来飲まれていたビールや世界各国のワインに加え、オランダから前世紀に伝わったジンが下層階級の間で瞬く間に広まり、酒場は天国から地獄までありとあらゆる様相を呈しました。
イギリスを代表する諷刺画家たちーホガース、ギルレイ、クルックシャンクらーは、杯を手に酔いしれる民衆や権力者の様をときに道徳的に、ときにグロテスクに描いています。
ジェイムズ・ギルレイ《双子星、カストールとポルックス》1779年(刷り1817年以降)
他方パリでは、フランス革命を機に一気に食文化が花開きます。
貴族のお抱えだった料理人が失職、自ら店を開くようになりレストランが激増しました。
高級なレストランだけでなく、カフェ、宿屋、食料品店など料理と酒を提供する庶民的な店も喧騒で賑わい、ドーミエやガヴァルニの絵にみられるようにパリの夜を彩りました。とくにドーミエの写実的描写は、のちのマネやロートレックに影響を与えたことで知られています。
本展では、ローマ神話の酒神バッカス(Bacchus)にちなみ酒好きな人々をその信奉者(Bacchant)にみたて、主に19世紀のパリ・ロンドンの酒場の情景を当館の豊富な版画コレクションで展覧します。
ビールやワインにまつわる意外なエピソードや、神話にちなんだ諷刺画、あるいは賑やかな宴の光景など人間味あふれる作品の数々をお楽しみください。