大航海時代の末期、オランダ船でヨーロッパへ運ばれた多くの東洋陶磁器のなかに、ひときわ眼を引く色絵磁器の一群がありました。柔らかい陶器のような、それでいて精巧な薄造りの純白の肌。鮮やかな色彩で描かれる華やか、かつ繊細な文様。
現在、柿右衛門様式と呼ばれるそれらは、その後始まる西洋の磁器生産にも大きな影響を及ぼしました。
ヨーロッパを魅了した東洋の華を、染付作品まで視野を広げて紹介し、その創出から発展、次代への変化を辿ります。(約100点出展予定)
【柿右衛門とは】
江戸時代初頭に誕生した日本の磁器は、17世紀半ばに始まった輸出事業によって急速に進歩し、純白の磁肌に華やかな文様を描いた「柿右衛門様式」を完成させました。遠くヨーロッパへ運ばれたこれらは、彼の地の王侯貴族の心をつかみ大いに人気を博したのです。
輸出向け製品である柿右衛門様式は国内に伝えられた数が少ないこともあり、近代の研究においてはその貴重な色絵磁器を、江戸時代から名を知られた名工・酒井田柿右衛門の手になるものとして「柿右衛門手」、「柿右衛門」と呼びました。
その全貌が知られるようになったのは20世紀後半になってのこと。ヨーロッパの東洋陶磁コレクションの実態や国内の発掘調査の結果をふまえ、現在では伊万里焼の一様式として「柿右衛門様式」と呼ばれています。
【柿右衛門様式の源流と成立】
佐賀県有田町周辺で誕生し、伊万里津から積み出されたため「伊万里焼」と呼ばれた日本の磁器は、初期には朝鮮半島の技術を使い染付や青磁を焼きましたが、1640年代以降に新たな技術が導入され、製品の幅を広げました。その一つが赤、黄、緑などの上絵の具を用いた色絵技法です。
初期の色絵は、当時の中国赤絵を手本にしたもので、それらは現在、古九谷様式の祥瑞手(しょんずいで)、五彩手(ごさいで)と呼ばれています。
1650年代末に大々的に始まった輸出事業によって急速に進歩した伊万里の色絵は、1680年代に柿右衛門様式を完成させました。
第一室では、伊万里色絵の始まりと柿右衛門様式の源となった色絵技法、また輸出初期から盛期にかけての色絵の変化を紹介します。
色絵 花鳥文 輪花皿【江戸時代(17世紀後半) 高:3.6cm 口径:22.0cm 高台径:14.5cm】
内面全体に、二羽の鳥と松竹梅を描いている。松、竹、梅は、冬の寒さに耐える植物であることから吉祥を意味し、歳寒三友図と呼ばれている。歳寒三友図は中国で好まれた画題であり、中国の工芸品によく使われているモチーフである。細部まで配慮の行き届いた構図、さわやかな青系色を基調とした中で、梅花の赤色と金色が効果的に用いられている。
【柿右衛門様式の完成と広がり】
純白の磁肌、薄く精巧な造り、華麗な色と文様。完成された究極の色絵は、ヨーロッパで熱烈な支持を得ました。これを頂点として、17世紀半ばから末にかけて輸出用の磁器製品が数多く生産されましたが、それらは土型を用いて作られた人形や染付食器まで、器種、技法とも幅広いものでした。
第二室では、典型的な柿右衛門様式ともいえる完成度の高い色絵と、人形、染付などに見られる柿右衛門様式の広がり、併せてヨーロッパにおける当時の磁器愛好の様子を紹介します。
色絵 瓢唐 水注【江戸時代(17世紀後半) 高:19.3cm高台径:11.8×8.5cm】
西欧に輸出された伊万里焼の中には人形や動物などの像がみられ、特に柿右衛門様式の作品に優品が多い。この瓢箪にのる唐子を表した異形の水注も輸出用の作品と考えられる。上にもたげた瓢の上半部を払子(ほっす)、七宝、紅葉で飾り、大振りの下半部を紺青の唐草で埋めつくしている。白地を多く残す一般的な柿右衛門様式と異なり、力強い絵付けではあるが、どことなくユーモラスな趣の漂う作品である。
色絵 葡萄文 虫籠形食籠【江戸時代(17世紀後半) 高:10.9cm 口径:10.4cm】
柿右衛門様式の製品には、食器の他に人物や動物をかたどった像があるが、香炉や蓋物にこうした造形的な装飾が施されたものがある。これは虫籠の形を写した蓋物。籠を結ぶ紐や上部の網目などが立体的に表されている。絵付けや細工が丁寧で、磁胎も艶やかで美しい濁し手に仕上がっており、雅(みやび)な風情が感じられる。
【柿右衛門様式の終焉 そして復興】
17世紀の末から輸出事業はやや陰りを見せ、国内では町人文化が新しい需要を生み始めていました。そうした中で有田は新たな色絵の方向を模索します。過渡期を経て、やがて伊万里色絵の主流は国内も海外向けも染付に上絵と金彩を施した金襴手(きんらんで)へと移ります。柿右衛門様式の瀟洒な意匠は変化し、「濁し手」と呼ばれた純白の磁肌は消えていきました。この濁し手が復活したのは、近現代になってからのことです。
第三室では、元禄年間の柿右衛門様式の変容と金襴手への変化を、併せて十三代、十四代柿右衛門の作品によって現代の「柿右衛門」を紹介します。
展示期間中、第2週・第4週の水曜日と土曜日に、当館学芸員による展示解説を行ないます。
予約は不要です。入館券をお求めの上、ご自由にご参加ください。
【水曜日 午後2時?】
4月8日・22日、5月13日・27日、6月10日・24日
【土曜日 午前11時?】
4月11日・25日、5月9日・23日、6月13日・27日
5月5日のこどもの日は、小中学生対象の展示解説を行います。予約は不要です。
なお、GW期間(4月29日?5月6日)は小中学生は入館無料といたします。
日時:5月5日 午前11時?と午後2時?の2回(各約40分)
対象:小中学生(内容は小学4年生以上向けとなります)