1932年、石川県の彫金の家に生まれた伊藤公象は、十代で九谷焼の窯元に弟子入りし、修業を重ねました。しかしほどなくして陶工芸を離れ、人の作為を抑制した、独自の造形世界を模索します。素材を土に絞り込むようになった72年、妻である造形作家、伊藤知香とともに笠間に居を構え、「美術工房桑土舎」(現・伊藤アトリエ)を設立。以来、この地を拠点に内外で作品を発表してきました。
伊藤作品の特徴は、自然現象を活かした造形にあります。多軟面体(たなんめんたい)と呼ばれるシリーズは、薄くスライスした粘土を即興的に丸めたものを焼成し、これをひとつのパーツとしています。また凍った粘土も繰り返し作品に利用されています。泥漿(でいしょう)を凍らせることで生じた繊細な土の亀裂は、驚くほどの多様さを見せています。
本展は、作家本人が所蔵する主要作品を核に、美術館所蔵の各時代、シリーズの代表作を加えて、伊藤公象の全貌を紹介する回顧展です。現在もなお旺盛な創作活動を続ける作家は、展覧会のための新作にも取り組み、美術館の展示空間にあわせたインスタレーションも期待されるところです。
《木の肉・土の刃》1991年,高松市美術館蔵
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