1952年、名古屋に生まれた稲垣は、愛知県立芸術大学の島田章三教室に学び、1976年に同大学油画専攻を卒業後、大学院に進みます。
国展に出品を重ね、国展新人賞、中部国画賞、日洋展で三越賞を受賞。
1979年に同大学大学院研修科を修了し、同年、第2回現代の裸婦展大賞を受賞します。
芸術大学在学時より絵画技術の評価は高く、早々とその力を認められてきました。
1984年には、第1回伊藤廉記念賞大賞を受賞。1986年、裸婦大賞展にて優秀賞受賞。1987年には、第22回昭和会展にて優秀賞を受賞。1993年、平成4年度名古屋市芸術奨励賞を受賞しています。
「卓上2」 油彩 65.1×91.0cm
「桜」 油彩 40.0×123.0cm
筆先の微細な動きが気の遠くなるほど繰り返された、徹底した細密描写で描かれた作品は、非現実的でありながら、さらに強烈な現実感を持って幻視させます。
たとえば皮膚の表面にとどまるカーテン模様が、皮膚そのものの質感を一層際立たせ、感触すら感じられるようです。
今回の新しい取り組みであるフロントガラス越しに描かれた風景は、一般的な風景画とは違ったリアルさがあり、描かれた対象と鑑賞者の間に、稲垣の描いた皮膜によって観せられる別世界が拡がるようです。
圧倒的な描写力で描かれた細密世界は、幻視性と日常性を行き交い、奇妙な感覚を伴って観るものに迫ってきます。
超現実主義的な幻想絵画でありながら、濃度の高い現実感が備わっています。
それは、髪の毛の一本、布の繊維、皮膚の表面を、単なる細密描写ではなく、強固な意思を込めるかのように描き分けられているからかもしれません。
そうすることで作品には生命力が溢れ、存在感が生み出されるのでしょう。
絵画表現が多様化し、アジアのアーティストが注目される昨今において、稲垣は今世紀具象洋画の旗手のひとりとして高い注目を得ています。
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