「一刻」 photo by Keizo KIOKU
▼ギャラリートーク開催
前原冬樹×山下裕二(美術史家・明治学院大学教授)
2009年1月22日(木)18:00~
前原は一木にこだわり、制作を続けてきました。
接着剤は使用せず、金属や皮 革、陶器部分もすべて一つの木から彫り出され、着彩されています。
本物と見紛うばかりの作品を目の当たりにした時の感動は、見た者にしか味わうことができないものでしょう。
また、東京藝術大学油絵科出身の前原の作る彩色がほどこされた木彫作品は、やはりどこか絵画的でもあります。
例えば、錆びた鉄板の上に干涸びた蟹が載っています。ざらついた質感に見事な錆色、色の抜け落ちた白色の蟹。
すべて木でできていると言われれば、思わず触れて確かめてみたくなることでしょう。
日常見慣れたものでありながら目を離すには美しく、惹きつけられるのは、本物とは違う芸術作品としての存在感が放たれているからでしょう。
さてこの蟹、時間の経過によって風化したのか、足がところどころ折れてとれています。
しかし、そこには欠けた不完全な形ではなく、むしろ風化したものの中に残る美としての完成体があるのです。
「自然に朽ちていく」は前原作品の一つのキーワードです。
年季のはいった革ベルト、数十年放置されたカミソリ、誰かが使っていたものなのでしょう。
形をそのままに、時代に残され朽ちていくのです。
カミソリやハサミというツールは、ファッションを重視したものでなく機能美を追求した結果、長いことその形を変えていません。いわばデザインの最終形です。
たとえ人に忘れられ、置き去りにされても、その形を残すことで誇りを忘れないということなのかもしれません。
それは、世間とは距離を置き制作を続ける作家自身の姿と見て取れることでしょう。
日々流行に振り回される現代への皮肉ともとれますが、前原自身はそのことを意識しているかどうかも分からないところで日々制作に明け暮れています。
なぜなら、前原自身は「自分の作品に意味付けはしたくない。
作品を見た一人一人が感じること、その一つ一つが答えだ。」と話しているからです。
前原冬樹 プロフィール
YOKOI FINE ART
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