70年代生まれの日本画作家のなかで現在最も注目されている三瀬夏之介の個展を佐藤美術館において開催します。
三瀬は、奈良に生まれ奈良で育ちそして京都市立芸術大学及び大学院で学びました。
2002年トリエンナーレ豊橋で大賞を受賞、その後は文化庁作品買上や国内外多数の展覧会への出品等、今や日本画の世界だけでなく美術界全体から注目される存在となりつつあります。
そして一昨年は、一年間イタリア、フィレンツェに渡り、また昨年は大原美術館のアーティストインレジデンスに参加するなどその活動はますます幅を広げ且つ精力的になっています。
三瀬の作品の変遷は大きく分けて3つの段階を経て今日に至っています。
先ず、錆(緑青)を表現素材として用いた作品、箔(金箔)を多用した風景(山など)。そして現在取り組んでいるのは墨を主に用いたモノクロームの大作です。
和紙に描くということ、箔や墨を用いるということだけ取って見れば日本画と言えないことはありませんが、三瀬の作品はいわゆる既存の日本画のイメージとは大きくかけ離れています。
作品のモチーフは、日本の山々、聖堂などの西洋建築物からネッシー、大魔神、円盤に至るまでありとあらゆるものが対象となり更には描くだけにとどまらずコラージュを施されている作品もあります。
また、大作は膨大な量のスケッチの切れ端を繋ぎ合わせるという作業の積み重ねからつくられます。
それは、まさに自らの記憶の断片をひとつひとつ繋ぎ合わせ再構築するかのような精神作業を伴い、まさに圧巻としか言いようのない迫力で訴え見るものを魅了します。
本展は、三瀬のイタリアでの多くの思索そして帰国後の表現の蓄積からなる最新作を一挙に展示公開いたします。
いままで見たこともないような日本画、三瀬夏之介の表現世界をどうぞこの機会に是非ご覧下さい。
三瀬夏之介 プロフィール
入場料 一般:500円 学生:300円
主催:財団法人佐藤国際文化育英財団 日本経済新聞社
協力:大原美術館 imura art gallery 関西文化芸術学院 画廊宮坂 Gallery neutron
▼出品概要
3階 無限連鎖する屏風に包まれる空間をつくりあげる
4階 アトリエ再現・小作品やイメージを刺激する小物を多数・廃材でつくったレリーフ状の作品・紙によるコラージュ・巨大な和紙作品(絵というよりは紙に包まれるような空間)
*全体的には暗い森のイメージ
▼コンセプト
今回の出品作のほとんどを森の中で描いている。周りは古墳が乱立する風致地区。訪れる人もほとんどいない静寂のなか筆はすすむ。
絵越しに鬱蒼と茂る木々が見え隠れする。こうやって眺めてみると、アトリエの中では大きく見えていた絵の小さいこと。あまりにも大きく横たわる世界の中のほんの小さな破片。それだけでは何も言わないし、気を許せばすぐにこの大自然に飲み込まれてしまう。何年もの時間をかけ、思いを込めた大作が誰にも見られること無く、倉庫の裏側で朽ち果て土に帰っていく姿を思い、少しの時間恍惚感に浸る。
パネルは木材だし、顔料は土だ。和紙は植物繊維だし、絵越しに見える世界の構成要素となんら変わりない。
雨が降ってきた。絵も地面も木々も同じように濡れる。
何か自然のある要素を人為的に結晶化させたような、絵と呼ばれるもの。わたしがそれを絵と呼ぶことによってしか、その抽象的存在を成り立たせることのできない、だらしない物体。その素材をねじ伏せ、絵を成り立たせる。
話は飛ぶが、昨年一年間イタリアはフィレンツェに滞在した。
フィレンツェではイタリア人の詩人と出会った。彼とは英語、そしてお互いのつたないイタリア語と日本語で意志の疎通をはかった。
彼は学問や教会の世界において今も変わらぬラテン語で詩をつくる。そこで生まれた作品は複雑な国境を越え、ヨーロッパの価値として立ち上がる。そこにはラテン語を解しない人間の居場所はない。もちろんイタリア語で書くこともあるが、それはそれでメッセージを届けるターゲットが違うわけだ。
ラテン語はすでに死語であるために文法が時代の影響を受けないという理由もあるだろうし、ラテン語を操れるということがある教養を示すことにもなるだろう。
このことはアートにおいて様々な技法、ジャンル、ヒエラルキーが越境を重ね、標準というものが見えなくなった今、とても示唆的な出来事だった。
彼はわたしの作品に感じ入るところがあったらしく、何度か絵について話したが、「日本画」というものについては最後まで解ってもらえることはなかった。
「バカらしい価値観だ、この世界には人間しかいない」
彼にとってのアート、ラテン語、ヨーロッパを疑うということは、わたしが絵、日本語、列島を疑うことと同じことだろうし、せまい世界でもがき苦しむわたしのことが歯がゆくてしょうがなかったのだろう。
がしかし、わたしがどんなにねじれようが、ひねくれようが、それは絵ではないと叫ぼうが、彼にとっての絵は眼前にある。そしてそれに彼が深く感じ入っているということがとても不思議な体験だった。
ここに、ただの言葉や文法ではない、ノイズや誤解を含む絵の可能性を見た。
そんな彼がわたしにくれた言葉、それが「冬の夏」だ。
この矛盾とノイズを含んだ言葉を軸に佐藤美術館の空間を立ち上げていきたいと考えている。
三瀬夏之介
▼関連サイト
三瀬夏之介HP:http://www.natsunosuke.com/
イムラアートギャラリーHP:http://www.imuraart.com/
▼関連イベント
■トークショー
1月18日(日)午後3時-4時半
東京国立博物館絵画・彫刻室長の田沢裕賀氏をゲストに迎えてのトークショー。
近世日本美術の専門家が三瀬芸術をどう見るかが注目です。
■トークショー&ギャラリーツアー
1月31日(土)午後1時-4時
アートソムリエ山本冬彦氏をゲストに迎えてトークショーを行い、その後銀座ギャラリー椿で開催している山本氏のコレクション展を作家、山本氏とともに巡ります。
スケジュール
午後1時- 佐藤美術館にてトークショー
午後2時- ギャラリー椿へ移動
午後3時- ギャラリー椿「山本冬彦コレクション展」にてトークショー
午後4時 解散
☆山本冬彦プロフィール
会社勤めの傍ら、毎週末に銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをして30年!のサラリーマンコレクター。集めた作品は1000点近くに及び、最近では収集品を公開する「コレクション展」を実施したり、「アートソムリエ」として個人メセナ活動に力を注いでいる。
http://otokonokakurega.net/navigator/41/
イベント協力:ギャラリー椿 http://gallery-tsubaki.jp/tsubaki.html
■アーティストトーク・公開制作
2月7日(土)・8日(日)午後1時?2時半
作家が展示会場にて制作しながら作品について語ります。
*イベントの参加には展覧会の入場料が必要です。
財団法人佐藤国際文化育英財団・佐藤美術館
〒160-0015東京都新宿区大京町31-10
Tel03-3358-6021 Fax03-3358-6023