Drawn -The Sands ©西尾康之 2008
西尾康之は「陰刻鋳造」と呼ばれる独自の造形手法で知られ、現在もっとも精力的に活動している注目すべき作家の一人です。
指のみによって作られる立体作品には、全長6mの巨大セイラ・マスや5mの戦艦ミンスクなど、その作業の莫大さが圧倒的な存在感を放ちます。
また、身長50mの巨大な女性が街を破壊する「ジャイアンティス」シリーズの油彩や、異常ともいえる霊感で幽霊への恐怖から逃れるため描かれた現代の水墨幽霊画など、「エロス」や「タナトス」に関連する作品を多く発表してきました。
西尾の制作テーマには常に明確な衝動が存在しており、その多くは恐怖に根ざしています。
体験から生まれたトラウマを乗り越えるため、自身の存在に対する不安をセンセーショナルなテーマを通じ作品として昇華させています。
彼の想像力はまさに超絶的で、われわれの期待を常に凌駕し続け、関係者一同今回の新作展でどのような新しい境地が見られるか非常に楽しみにしている次第です。
「Transform-変態-」、「優麗」に続け、山本現代で3度目になる西尾康之の個展は、溺れることを意味し“DROWN”と題しています。
西尾は幼少時に海で溺れかけたことがあり、その後、人命に不可欠な物質でありながら命を奪う恐ろしい対象でもある「水」の脅威に悩まされ、心の安堵を求め続けて至った結論は「魚になること」でした。
水の中で呼吸できるようになれば、水と死のつながりが解かれ、恐怖から抜け出せると考えたのです。
今回の作品は、人類が水棲化する過程を立体化しようとしたもので、「人魚」がテーマとなっております。
人魚といっても民話的なプロポーションを持っているものではなく、まだ完全には水に適応していない人類として、進化論的なリアリズムを追求した作品です。
今回の展示では会場を海と見立て、全長3m の「人魚」が浮かびます。
その他にも、新作の平面作品、また今年インドネシア“KITA”展で発表した人魚“Drawn -The Sands”も凱旋いたします。
なお、本展にあわせ、会期中に二冊目のカタログも出版される予定です。
「命が抜けた肉体は腐敗の手続きを突き進んでゆきます。
いかに美しい生き物であっても瞬く間に分解されてしまいます。
その時間を止める願望のため、作家の持つすべての造形ノウハウを注ぎ込みました。
美しい生き物の屍体として、魚のエラを取得した架空の人体がモチーフとなっていますが、人魚を僕の手の中から生み出すことは、重要な欲望の一つでした。」
西尾康之
西尾康之 プロフィール
山本現代
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Tel : 03-6383-0626
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