新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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夜汽車と小さなシューティング
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
親との距離や関係がしっくりいかない。これは誰にでもある悩みだろう。距離が近すぎても離れすぎても、時間の密度があってもなくても、うまくいかないときにはうまくいかない。親も人間なら子も人間で、当然かみ合いの悪いときはあるものだ。これという法則はない。
写真家・山形優の場合も一般論では片付かない。東京に暮らす若い女性が、里帰りにわざわざ夜行列車を選び、まるまる一晩を費やしながらゆっくりと実家へ向かう、という話はこれまで聞いたことがない。普通なら飛んで帰るところだろう。ところが、山形優の帰郷にはいつもこのじれったさがあり、今思えばそれこそが彼女の家族写真のすべてを言い表している。
彼女が小2のとき、新しい父親がやってきた。その後、弟が誕生。彼女は「新たにリスタートした家族の中で、自分だけが古いものをしょっている」と、感じながら育った。だが、父親は無口だが根の快活ないい父親だったし、母親は美しく、弟も素直な少年に育った。何も問題はなかったはずなのに、彼女は心の奥底に、曰く言いがたい、小さな遠慮、配慮、溶け込み難さというものをいつも抱えていた。やがて山形は成長し、唯一のわがままの気持ちで「東京で写真を仕事にしたい」と父親に申し出、一人暮らしをはじめた。その後は家族との距離も適度に開き、おだやかな、いや互いに気遣いながらのおだやかすぎる日々は続いた。
彼女の手にカメラがなかったら、ここでこの話は終わりだったのかもしれない。だが4年前、彼女は父親に「撮りたいんだけど」と言い、父親は「撮ればええがな」と、全身を覆う鮮やかな彫り物のすべて見せてくれた。それは、何年にもわたり、父親が娘の目にあまり触れないように気遣ってきたもの、関係の中で秘されたものだった。その小さなシューティングが変えた。距離は一気に縮まり、彼女は今は迷いなく家族の表情を追う。けれども、まだ何かがあるらしい。今も夜汽車を選んでしまうんです、と言う。そのじれったさが、きっと個展会場にはあらわれている。僕たちが一番見たいのはそこだと思う。
ビジュアルアーツギャラリー・東京
東京都新宿区西早稲田3-14-3 早稲田安達ビル1階
TEL: 03-3221-0206(東京ビジュアルアーツ写真学科)
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