新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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痕跡に閉じ込められた記憶
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
喜納彬光の「記憶の箱」は、彼の人生の誕生から20年あまりを経た今日まで、彼が集められるだけ自分の痕跡をかき集め、それを写真にとどめようとする作品である。痕跡が、かすかなものにすぎなかった記憶を助け明快にまとめ直し、あるいは、「もともとなかった」記憶を新たに生み出す。作品制作が進むうちに、喜納自身の痕跡ばかりか、家族や他者の痕跡までしまいこむ「箱」へと成長した。
代表的な一枚に、へその緒が写っている。喜納の誕生時に彼の身体からはがれ落ちたものだ。私が知るものとはずいぶん形状が異なる。それは乾燥してはいるものの、たしかに「肉」であり、肉体の一部であったという証しとも言える存在感を発する。しかし同時に、人がいつか土に還るように、有機から発し無機物に近づいていく、という方向性も読める。痕跡は、主体であった彼からはがれ落ち、土に還る日までは、また別の命を生きはじめるのだ。その複雑な痕跡の表情は 4X5のラージフィルムでなければ探り出すことはできなかったはずだ。
また別の一枚には、帝王切開をした母親が術後身体に埋めていた金属の器具、も見える。説明を受けるまで、私にはこれが何なのか皆目わからなかった。喜納の親知らずも写真になっている。これらは、それ相応の痛みを想像させるに十分な存在感を持つ。
こうして集められた数多くの痕跡は、ほとんどが違和感の固まりであり、ショッキングなものでもある。喜納本人にとって痕跡と対峙することは穏やかならぬものがあったろう。痕跡の予想外の存在感は、わたしたちの感情をも激しく揺さぶる。いつのまにか、これらは彼だけのものではもはやなく、わたしたちにとって目をそらせないものになってしまったのだ。
喜納と違い、わたしたちは多くを失ってきた。さようなら、ということもなく、いつの間にか忘れ去ってきた。いま、あらためて、この展覧会で、その多くに再会できるはずだ。
ビジュアルアーツギャラリー・東京
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