「バレリーナ」 10P
この度、日動画廊では松澤茂雄(まつざわ・しげお)展を開催いたします。
1929年、千葉県市原市に生まれた松澤は、47年に千葉師範学校(現千葉大学)に入学。50年に卒業し、小学校の教師となりますが、この頃に猪熊弦一郎と出会い、人物画の指導を受けます。同年、光風会展に出品し、初入選。この頃は海浜風景を中心に描いています。
その後、抽象画の表現に取り組み、57年に第1回シェル美術賞展にて佳作賞を受賞。グループ「原」(55年)、「L.B.S」(60年)、「ゲート5」(63年)を結成し、多様な表現に挑んでいます。
66年に初渡欧。フランス、イギリス、イタリア、ドイツ、オランダ、ベルギーを訪れます。72年には西洋美術視察のためフランス、イギリス、イタリアへ、74年にはシルクロードへ取材旅行し、サマルカンド、ヒワ、タシケントなどを訪れています。
諸外国での経験は、「ヨーロッパの古都とシルクロードの旅行を経て、観念的な抽象性を捨て、より具象的な人間ドラマを追いかける。それは、より原初的な人間への回帰」(安井収蔵「松澤茂雄の人と作品」より)であり、のちの作品に表われるようになります。
「フランチェスカ」 50F
そして、前年に引き続き出品した80年の第6回日仏現代美術展(グランパレ美術館、パリ)にて、ビブリオテーク・デ・ザール賞1席を受賞。この頃には再び具象画に取り組み、同年、第3回現代の裸婦展では大賞を受賞。翌年開催された大賞受賞展では、松澤のライフワークとなる「陰翳礼讃」シリーズの記念すべき第1作目となった「射光」を発表。後に松澤自身が「美は物体にあるのではなく、物体と物体の作りなす陰翳の紋、明暗にあると信じている」(「繪」83年7 月号より)と語るように、光と影のかかわりの中に裸婦の形体の美しさを捉える試みは、多くの注目を集めました。
「射光」 100F
近年では、03年に市原市水と彫刻の丘にて個展、05年にはサンプラザ市原にて市原市ゆかりの文化人・松澤茂雄展(ともに市原市主催)が開催され、06年に市川市市民文化スエーデン賞を受賞しています。
茶色で下塗りを施したキャンバスに裸婦のデッサンをし、その上に点描しては乾くのを待ち、点を一つ一つパレットナイフで潰すという仕事を完成まで際限なく繰り返し、絵肌を作っていく松澤茂雄。8月で80歳となる松澤の極みを展観する、日動画廊では12年ぶりとなる個展です。どうぞご期待ください。
「風(A)」 60F
日動画廊
東京都中央区銀座5-3-16
TEL:03-3571-2553