新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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家族に、向かう。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
「こうせい」と言う名前を、祖父は左腕に彫った。同じ痛みを分け合いたいという強い思いから、誰にも相談せず突然彫り込んだ。
写真家・高橋依里の兄夫婦のひとり息子、彼女にとっては甥っ子にあたるこうちゃんは、2歳になったばかり。生まれながら、ダウン症という重い染色体の障害を背負ってきた。こうちゃんが生まれたとき、家族みんなが歓迎した。だが、こうちゃんには合併症があり、その発症は誰にもわからない。最新の医学でも予測できない。こうちゃんはその度に病院に入り、ひどいときには胸の手術を受けている。こうちゃんのおじいちゃんは、幼い彼の痛みやがんばりを絶対忘れるものか、と決意している。腕に彫り込んだ名前が消えるときは簡単にはやって来ない、ということを家族全員が知っている。
この物語は、家族が気持ちをひとつにしながら保ち続けている日々の暮らしを、素直に、そして克明に追ったものである。
だが、道のりは簡単ではなかった。その家族を撮りたい、と、高橋依里が言ったとき、彼女は、小さな家庭用のアルバムに20枚弱のサービス・プリントをつめて見せてくれた。それを見たとき、あくまで表現としてしか接しようとしない僕の姿は、彼女にとって冷酷だったかもしれない。「まだまだ撮れていない。家族だから撮れるというものではないし、撮影回数が少なすぎて言いたいことがわからない」と、彼女に告げた。
くやしかったのだろう。それから約半年、高橋依里は仕事の合間を縫い、時間を作ってこうちゃんの住む町に向かった。ひたすら撮ることで、写真は生き生きと命を吹き返した。彼女の気持ちは写真を通じて家族に溶け込んでいった。家族に認められたと言ってもいい。
高橋依里は、おばとして、家族として、今やっとおじいちゃんの腕の「こうちゃん」に追いついた。写真展「こうちゃん」の本当の意味はそこにあるように思う。
ビジュアルアーツギャラリー・東京
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