新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
http://photalk.web.fc2.com/
やめるにやめられない旅。旅を簡単に終わらせてはいけない。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
「日本は地図よりも広い」。久保田滋はそうつぶやきながら写真を見せる。展示されるのは、彼がテントとカメラをしょって、佐渡や四国や東北を歩いて撮影した、すべてをこそぎ落としたかのようなシンプルなモノクロームと、数は少ないが軽やかな印象を残すカラー作品である。
それらはとてもシンプルだ。だからこそ、旅先の小さな情景に触れ合った彼の繊細な気持ちが、時間をおいて伝わってくる。
彼の撮影に目的はない。もっと言えば、旅そのものにも目的はないし、スケジュールも約束も何もない。「車はもちろん、自転車でも移動する気にならない。歩いていないと見落とす危険性が高いと感じる。だから歩くんです」。冬や早い春、初夏にテントを張りながら、自由すぎる時間とともに土地の隅々を歩いて回る。それを久保田は繰り返している。彼にとって日本はとても広いのだ。
旅は様々なことを感じさせてくれる。肌に馴染んでない感じ、異質な見慣れない風景、静かな生活の中に入り込みながらもどこまでいっても旅の人であるという距離。だからこそ旅は、人の内側にさざ波を立て、気づきを与えてくれる。だが、それさえも通り超えたところにある旅はどうだろう。彼の写真を見ていると、旅をやめるにやめられない人間の気持ちというのが少しわかるような気がする。それは都会の生活から見れば、現実逃避と言われても仕方がない。彼がタイトルにした「まほろば」という言葉の意味はもしかすると、終わりを見つけられない人間のあたりを覆う、おぼろげな光とおぼろげな時間が解け合う幻のことだろうか。
写真を撮っているから、写真は残り、「あなたの旅はこういうものだった」と写真が後から気づかせてくれる。久保田は「やめるにやめられない旅」を通じて、被写体に特別な意味を求めるよりも、目にしたものをそのまま、とにかくまずカメラの中に受け入れる、そのことを静かに行うという、世界と彼自身の交点を発見したのだ、と、僕には見える。
だが、「やめるにやめられない旅」は逆説的にはまだ始まったばかりだ。終わりがどこにあるのか僕にはまるでわからない。旅人は、旅を簡単に終わらせてはいけない、と、そういう言葉をエールに替えて彼に贈りたい。
ビジュアルアーツギャラリー・東京
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