最も権威ある賞が生んだ、最も斬新なアート
「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」は、今日の現代美術界で最も重要な賞の1つである「ターナー賞」の歴代受賞者すべての作品を一堂に集める初の試みです。
絵画からインスタレーション、ヴィデオまでを紹介し、英国現代美術の流れを再考します。
デミアン・ハースト 「母と子、分断されて」 1993年
208.6×332.5×109cm (×2), 113.6×169×62cm (×2)
スチール、ガラス強化プラスチック、ガラス、シリコン、牛、子牛、ホルムアルデヒド溶液
アストルップ・ファーンリ近代美術館、オスロ蔵
→ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)を代表するハーストは、「死」をテーマにセンセーショナルな作品を制作する。中でも本作品は、実物の親の牛と子牛が真二つに切断されホルマリン浸けになった衝撃的な作品。1995年度の「ターナー賞」展で展示され、世間に大論争を起こした。
今、現代アートが世界中で最も熱い都市、ロンドン。そのロンドンにあるテート・ブリテン(旧テート・ギャラリー)では、毎年「ターナー賞」展が開催されます。絵画、彫刻、写真といった既存の表現メディアに縛られることなく、多様で今日的な表現を取り上げるユニークな「ターナー賞」は、現代美術界で最も重要な賞の1つといえるでしょう。
毎年12月に行われる授賞式は、テレビ中継され、翌日の新聞で受賞者が大きく報道されるなど、英国の国民的行事ともいうべきものです。
賞の対象は英国出身もしくは英国で活動しているアーティストですが、英国内での傾向を示すだけではなく、現代美術界全体の動向を示すとともに、受賞者たちは世界中の注目を集め、国際的な活躍を遂げています。
また、「ターナー賞」によってもたらされた現代美術への高い注目は、後のテート・モダンの開館とあいまって、ロンドンを一躍、世界のアートの中心地に押し上げました。
ギルバート&ジョージ 「デス・アフター・ライフ」 1984年
482 × 1105cm 写真に着色
大阪市立近代美術館建設準備室蔵
→「生きる彫刻」としてのパフォーマンスでもおなじみの二人組ギルバート&ジョージ。長さ約11mもの巨大な写真の本作品は、ポップでありつつも、失業問題を抱えた当時のロンドンの若者の鬱屈と苛立ちを描いている。
「ターナー賞」を回顧し、1984年から今日までの現代美術の新しい表現の足跡をたどる本展は、1980年代の「ニュー・ブリティッシュ・スカルプチュア」から、90年代の「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」(YBA)、そして2000年代の最新の動向まで、過去20余年の英国現代美術の変遷を紹介します。
本展は歴代受賞者の受賞当時の作品を中心に構成されますが、ウィットに富み、ユーモアに溢れ、知的で、ポップで、衝撃的な作品群は、今でもクールで刺激的。受賞者の数だけ驚きがあるといえるでしょう。
本展は、2007年10月2日から2008年1月6日までテート・ブリテンで開催された「ターナー賞:回顧展」
(Turner Prize: A Retrospective)をもとに、森美術館が再構成し、「UK-Japan 2008」公式行事として開催されます。
ヴォルフガング・ティルマンス 「君を忘れたくない」 2000年
Courtesy: The artist and Maureen Paley, London
→ティルマンスは80年代末から友人を撮った写真を雑誌に発表し、ユースカルチャーの代弁者的地位を確立しました。近年は風景に光の軌跡を混在させた抽象作品を制作しています。
「ターナー賞」・・・
「ターナー賞」は、新しい美術の振興を目的とするテート・ギャラリーのパトロン団体、「新しい美術のパトロン」(ThePatrons of New Art)によって、1984年に創設。
名前の由来は日本で最も有名な英国人アーティストの一人ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)。英国美術に偉大な功績を残し、一般の人になじみのある「ターナー」の名前を付けることにより、国民的現代美術の賞になることが意図された。
対象は50歳未満の英国人及び英国在住アーティストで、ノミネートされた複数の候補者が参加する「ターナー賞」展を開催して、1人の受賞者を選出。テレビ局のチャンネル4との連携により、2001年には歌手のマドンナが受賞者を発表するなど、美術界だけでなく広く一般市民からも注目されるにいたっている。
2007年度の賞金総額は4万ポンド(約1千万円)。
クリス・オフィリ 「ノー・ウーマン、ノー・クライ」 1998年
243.8×182.8×5.1cm
アクリル、油彩、ポリエステル樹脂、紙のコラージュ、地図用ピン、象の糞、カンヴァス
テート蔵
→黒人文化が主題のオフィリの作品は独自の美を持つが、象の糞を用いるなどアイロニーも込められている。1998 年度の「ターナー賞」展に出品された本作は殺害された黒人少年の肖像が含まれ、社会的側面も持つ。黒人初の受賞者としても話題を呼んだ。
「テート」・・・
テート(旧テート・ギャラリー)は、テート・ブリテン(1897年開館、2001年改称)、テート・モダン(2000年開館)、テート・リバプール(1988年開館)、テート・セント・アイヴス(1993年開館)の4つの館で構成される、英国にある国立の美術館群。
古くはヘンリー・テート卿が個人の収集品とナショナル・ギャラリーにある作品を集め「ブリティッシュアートの美術館」として開館したテート・ギャラリーがルーツである。
2006年度に4館を訪れた総来館者数は770万人に上る。
グレイソン・ペリー 「ゴールデン・ゴースト」 2001年
67 ×直径35.5cm
陶サーチ・ギャラリー、ロンドン蔵
→一見古典的に見えるペリー作の壷。しかしそこに描かれた主題は、戦争、政治、性、暴力など社会的なもので、意外性に富む。「クレア」という名の女性に扮して、2003年度の授賞式にも登場し、一躍有名になった。
▼出品作家 / 受賞者一覧
1984 マルコム・モーリー、1985 ハワード・ホジキン、1986 ギルバート&ジョージ、1987 リチャード・ディーコン、1988 トニー・クラッグ、1989 リチャード・ロング、(1990 実施されず)、1991 アニッシュ・カプーア、1992 グレンヴィル・デイヴィー、1993 レイチェル・ホワイトリード、1994 アントニー・ゴームリー、1995 デミアン・ハースト、1996 ダグラス・ゴードン、1997 ジリアン・ウェアリング、1998 クリス・オフィリ、1999 スティーヴ・マックィーン、2000 ヴォルフガング・ティルマンス、2001 マーティン・クリード、2002 キース・タイソン、2003 グレイソン・ペリー、2004 ジェレミー・デラー、2005 サイモン・スターリング、2006 トマ・アブツ、2007 マーク・ウォリンジャー
▼主催など
主催:森美術館、テート・ブリテン、ブリティッシュ・カウンシル、朝日新聞社
助成:大和日英基金、グレイトブリテン・ササカワ財団
特別協賛:八木通商株式会社
協賛:ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、アール・ビー・エス証券会社
協力:日本航空、ニコラ・フィアット
▼入館料
入館料(円):一般1,500、学生(高校・大学生)1,000、子供(4歳以上 - 中学生)500
※表示料金に消費税込
※本展のチケットで「MAM プロジェクト007:サスキア・オルドウォーバース」、展望台 東京シティビューにもご入館いただけます。
森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
Tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)