人間は最後には一人であるということ。
それを時には立ち止まり、思い出さないといけないということ。
人間の関する事象において絶対ということはないということ。
素手で蝶々を捕まえるということ。
多田友充、2008 ink on paper, 27.5 x 18.5cm
多田のドローイングやペインティングは、具象的なものであれ、より抽象的なモチーフであれ、その抑えられた色調や画面全体を包み込む静寂により、しばしば見る者に孤独を感じさせます。
「孤独」と聞くと、人は寂しさや悲しみといった感情と結びつけ、それゆえ孤独であることから常に逃れようとしがちですが、多田は「孤独」をもっと広い意味で捉えています。多田にとってのそれは、たった一人で世界と向き合う瞬間なのです。
そのとき目の前に広がる風景は、想像を超えた美しいものかもしれないし、悲しみに満ちたものかもしれません。しかし、そのどちらかであると断定することは決してできず、相反する感情が混在している世界なのです。
また、日常から断絶したその世界に「永遠」を感じることもできるでしょうが、一方で、圧倒的な力を誇る日常性の流入によってあっという間に壊れてしまいそうなはかなさをももっています。
多田は、そっと両手で包み込むようにその世界を描き出します。多田が主にドローイングを表現手段としているのも、その繊細な線によってそういった世界観を瞬時にすっとすくい取ることにドローイングの持つ即時性が適しているからと考えられます。
本展では、100数十点の新作ドローイングを発表します。これらは、多田がこの一年近くの間、日々の生活の中で見、聞き、感じ、そして考えたことを描きとめてきたドローイングです。
その積み重ねられてきた断片たちが今回まとめて展示されることによって、全体がひとつの私小説のように展開します。
多田のフィルタを通して見えてくる世界をどうぞお楽しみ下さい。
多田友充 プロフィール
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