新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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八藤まなみのプリントは、美しい、と心底思った。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
八藤まなみのプリントを最初に見せてもらったとき、美しい、と心底思った。かつて、エドワード・ウェストンの小さなオリジナルを見たとき、そこにプリントされている砂漠の砂の一粒一粒が見え、何十分も目が釘付けになった体験がある。目が吸い付いてしまって離れないのだ。若い時分、写真をむさぼるように見続けた時代の宝物ともいえるひとときだった。写真が好きで、オリジナルプリントの美しさ、魅力、いや、引力、魔力を知っている人とだけ分かち合える最高のレベルがそれだと思っている。その後、R・メープルソープやバーバラ・キャスティン、大野純一らの素晴らしいオリジナルに触れながら、僕は勉強させてもらった。
八藤まなみのプリントには、こうした体験を追随させてくれる何かがある。とてもなめらかな、理想的とも言いたいグラデーションが安定して施され、濃くも薄くもなく、彼女のイメージ通りの世界が、穏やかに提示される。質感はそこに目をとめる時間が長いほど丁寧に、そしてどこか気恥ずかしそうに浮き上がってくる。それはもはや紙ではなくなり、肌、といいたくなる。
ダイアン・アーバスと引き較べることなどしなくても、八藤自身がカメラを手にして街に飛び出していくのは、これはもうそこでしか得られない何かがあるからだ。状況は出たところ勝負になりがちだから、スナップのことも多いし、時にはポートレイトに近い落ち着きを見せることもある。写真の中の「童」たちは、どういうわけか、八藤に心を許している。自分たちが大手を振って歩いているテリトリーの中に、つかの間ではあるにせよ、新しい仲間として迎え入れている。
こうした子供たちとの小さな駆け引きというのか、ゲーソというのか、彼らからの小さな手の差し出され方が、痕跡として見えるのが作品「童心」のまた面白いところだ。彼らの楽しげな声が聞こえてきそうである。
八藤まなみが彼らのプリントをとても丁寧に扱っているのを僕は知っている。上質なプリントに安心して登場している子たちを眺めているうち、カメラが消えていく。撮る側と撮られる側の境目がなくなった瞬間がそこにあるように感じて、少し優しい気分になるのだ。
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