新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
http://photalk.web.fc2.com/
いそうでいないのだ、パノラマは。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
千葉美幸はプロの雑誌カメラマンだ。仕事柄、国内外問わず、かなりの頻度で出かけていく。祭りがあると聞けばカメラを担いで出かけ、一癖ありそうな祭衆に向かって、絵になるように平気で彼らを動かし並べて撮ってくる。タレント撮影にもあまり動じない。いたってマイペースである。人間であればなんだって撮ってくる、という安定感が彼女には備わっている。ときどきこういう資質の若者がいるものだ。カメラが間にありさえすれば、200 %の活力がみなぎって、一瞬であるにせよ、きわめて濃厚な人間関係を作り出すことのできる幸せな人間。千葉美幸を一言で紹介するならそう言うことなのだと思う。
すべての作品が、横に長いパノラマのフォーマットというのも、90 年代後半を思わせ、今にしてみるとおもしろい。作風が限定されるから、いそうでなかなかいないのだ、パノラマは。その強烈にトリミングが効いてる世界のなかで、彼女の撮った人間たちは、右往左往しながら動いている。弁当をぱくついている労働者は今でも写真の中で熱心に箸を運びながら口を動かしているし、思わず駆けだした子供は今も駆けている。道端のおじさんは笑いっぱなしだし、少しくたびれたOL は電車に揺られ続けている。写真は小さな死だ、と、哲学者ロラン・バルトは言った。論理的にはそうなのかもしれない。だが、千葉の写真を見ていると、冷静な分析家であるバルトの言葉でさえ、ことさら悲観的すぎると思えてならない。死ではない。反対だ。彼女の視神経が人々を捕らえ、シャッターを切り、感光されるまでの間、カメラの前に厳然と存在した「確実な生」を、彼女の作品から感じるのだ。
使い込んでぼろぼろになったコンパクトカメラ。それを縦横無尽に駆使してスナップする彼女の生のパワーはまぶしい。それとも、カメラの外で途切れることなく補充され続ける日々の暮らしのエネルギーが、彼女を捕らえて放そうとしないのか。千葉は、知らない町を目をきょろきょろさせながら歩き回る。今日もどこかで、日々を真っ正面からのぞき込んでいるに違いない。
ビジュアルアーツギャラリー・東京
東京都新宿区西早稲田3-14-3 早稲田安達ビル1階
TEL: 03-3221-0206(東京ビジュアルアーツ写真学科)
http://tva.weblogs.jp/vagallery/