本展では、1990年からの初期作品をはじめ大野一雄のシリーズ、深海、JAPANESE BEAUTY、SLEEPERSなどに加え新たなシリーズStereotypeの未公開最新作も展示します。
■出品概要:
初期作品 ( - 94年)
大野一雄・慶人シリーズ (00 - 07年)
SLEEPERS (95 - 06年)
Stereotype(新シリーズ・新作)ほか 40点
■展覧会概要
展覧会名: - 複眼リアリスト - 諏訪敦絵画作品展
主催:財団法人佐藤国際文化育英財団・佐藤美術館
後援:東北芸術工科大学
協力:株式会社便利堂 彩鳳堂画廊 ナカジマアート
入場料:一般500円 学生300円
諏訪敦は、北海道に生まれ、1992年武蔵野美術大学院修了、1994年には文化庁派遣芸術家在外研修員として2年間スペインマドリードに在住、彼の地で参加した国際絵画コンペで大賞を受賞し画家としてのキャリアをスタートさせました。
帰国後は絵画の原点回帰としての意味で写実表現の追求を続けましたが、2000年に開催された個展で、前衛舞踏の先駆者大野一雄、慶人両氏の協力を得て一年間取材し描き下ろしたシリーズ作品を発表しました。
この制作体験は諏訪に大きな示唆を与えたようで、このプロジェクトを契機として取材対象の選択を重視し、視覚情報のみならず触覚,嗅覚なども総動員し背後にある個人的歴史や思考まで、得られうる全ての情報を取り込み、対象とのコミュニケーションのプロセスそのものにテーマを見いだす制作スタイルへと転換させてゆきます。
その後は個展での活動が中心になり、日本在住の多様な来歴を持つ女性たちを題材にし、標本的に絵画とインタビューを併記したシリーズ「JAPANESE BEAUTY」(2003年)や、一般より募ったモデル協力者の生活空間を切り取り、本来秘匿されるべき寝姿を描写したシリーズ「SLEEPERS」(2006年)などに結実しています。
現在我が国では、ジャンルを問わず描写系絵画の台頭が顕著にみられますが、そのきっかけを作ったのが諏訪敦であると思うのです。
しかし、その超絶的描写能力と同時に表現のエッセンスは、対象への問いかけとコミュニケーションにより支えられ、そのため作品群の多くが人物画に占められているのです。
「よそよそしい私は、絵画を通して初めて他者と確かな関係を築いていると実感できる」と本人が語るように、デッサンを基本とした視覚情報の確認のみならず、肉体的五感を総動員した記憶、取材対象との対話、機材使用の記録、生活空間の共有など、単に再現的意味においてのみ完璧な絵画を求めるにしては過剰で執拗とも思える、複眼的な情報の取り込みに裏付けられている事などがこの画家の表現の本質なのです。
そしてこのことがまさに、既存の70年代フォトリアリズム、国内の鑑賞絵画的写実画家たちなどと、諏訪の絵画を分つ部分であると言えるのです。
本展は、この新世代の作家諏訪敦の最新作を含む全貌を、佐藤美術館全館に展示網羅することで現代絵画の行方を考察しようとするものです。
【複眼リアリスト - 諏訪敦展 展示構成コメント】
Part1 初期作品1990 - 1996
諏訪敦は1967年北海道に生まれ、1992年武蔵野美術大学院修了後、1994年には文化庁派遣芸術家術家在外研修員としてスペインマドリードに在住、彼の地で参加した国際絵画コンペで大賞を賞し画家としてのキャリアをスタートさせました。
スペイン滞在は1996年秋まで続き,帰国2週間前にはアントニオ・ロペス・ガルシアと会見。
帰国後はスペイン・リアリズムの影響を示しながら絵画史上の原点回帰としての写実表現の追求を通し画家として認知されてゆきます。
このコーナーでは大学生時代の習作、スペイン留学時代に行ったプラド美術館での模写作品及び小品などを紹介しています。
Part2 大野一雄・慶人シリーズ
「大野一雄の幻視」 2000
「大野一雄像」 2007
絵画の原点回帰としての写実表現にある種の限界を感じ始めていた諏訪は、現在まで続く日本人という概念への考察を始めた延長線上で前衛舞踏の先駆者大野一雄に関心を示し、2000年に開催された個展で一年間取材し描き下ろしたシリーズ作品を発表し大きな話題となりました。
この大野親子との制作体験が、単に視覚情報のみに完璧さを求めるのではなく、複眼的な情報の取り込み(取材対象との対話、対象の来歴調査、多様な記録機材の使用、生活空間の共有など)過剰で執拗とも思えるプロセスを重視する、その後の諏訪の方向性を決定づけたシリーズとも言えます。
数年を経て2007年には100歳を迎えた大野一雄を介護ベッドの傍らまで取材に赴き、大作を制作しました。
Part3 ひとたち
「どうせなにもみえない」 2005
日本在住の多様な来歴の女性をモデルとして集め、美人画の体裁で標本的シリーズとした「JAPANESE BEAUTY」(2003)や在日三世に取材した肖像など、人物像、特に現代日本に居住しながらそのアイデンティティーに違和感を持った個人に取材した作品を多く発表しますが、共通して言える事は例外無く画面に現れる人物はひとりで、それぞれ傾向の異なる孤独を示す単独の肖像ばかりの制作が続きます。
また、男性像も断続的に制作していますが、対象者への個人的な敬意を制作のモチベーションとしていて、諏訪が語る男性にモデルを御願いする基準は「個人としての強い存在を感じさせる方」だそうです。
Part4 SLEEPERS
「水の記憶」 2003
モデル協力者の生活空間で寝姿を描写したシリーズを、その活動のほとんどを通して継続しています。
制作に臨む共通の条件は、必ず画家が現場に居合わせる事だけです。また、女性像が多くを占めますが彼女達は全員が公募したモデルで、一般的な意味においては画家とただ描かれるために極めて不自然な出会い方をし、作品制作現場もやはり一貫した不自然さがつきまといます。
どこまでもリアルな現場である実父の遺体を描写した絵画もこのシリーズの一端を占める事に比し、女性像は本当に生活空間に立ち入り寝姿を描く事を許されたのか、またモデルは本当に眠っているのかさえ疑わしいと思わせます。
虚実ないまぜの作品群は、画像としての美しさと同時に事実の不確かさを感じさせるものであります。
Part5 Stereotype
2007年から始めたばかりのシリーズ。
日本人のステレオタイプと言われる、例えば「東洋人=合掌」「女性は直毛の黒髪」など正誤に関わらず、その情報だけをあきらかに示したモデルを克明に描写した作品群です。
ステレオタイプとは社会学用語で、印刷のステロ版を語源とし印刷物さながらに紋切り型の概念や偏見が、一般に広く共有されている状態をさします。
ひとは多くの場合そうして物事の重み付けのプロセスを省略し世の中を把握しているように見えます。
諏訪は「この連作では最初から虚像を描く事を目的にしています」と語っていますが、これは本人が写実表現を得意とする画家と認知され、写実画家とは現実を忠実に写生する態度が本道であるとされているからこそ逆説的に成立するコンセプトです。
画面の上では、ある日本人像へのリアルさを超絶描写で追求しながら、どこまでも物事の本質に到達出来ない皮肉な「ずれ具合」を作品にする事が目的です。
このシリーズの作品は個々にはそれぞれ美しい映像を示しますが全体を通してみた時、日本人のイメージを克明に描写しているに関わらず、どこか不気味さを伴う日本人にも何にも当てはまらない空疎な人間像が立ち現れます。
その映像ソースの情報の全てが、日本人の定評ともいえる既存の概念から由来しているのは間違いなく、その特徴を露悪的なまでに映像化しているのに、です。
佐藤美術館特別展 「複眼リアリスト - 諏訪敦絵画作品展」附帯イベント
■概要
イベント名:「超絶描写VSコロタイプ」
主催:財団法人佐藤国際文化育英財団
コロタイプ技術の保存と印刷文化を考える会
協賛:株式会社便利堂
入場料:無料
参加定員:100名
日時:平成20年1月26日(土曜日)
時間:午後2時 - 5時
趣旨
本企画は、超絶的描写作品で知られる画家諏訪敦と全国の美術館、博物館の文化財の極めて精密なレプリカ製作で知られるコロタイプスタジオとのコラボレーションを実現しようとするものです。
しかし本企画は、ただ単に諏訪の超絶描写にコロタイプがどこまで迫れるかという一方的なベクトルで考えているのではなく、双方の対話のなかで、コロタイプの特性を最大限に生かしながらなお且つ画家の描写表現を損なわない、言わば「表現の可能性の模索による新たな作品の創出」が目的です。
株式会社便利堂の一世紀以上の長きにわたって培われた技術と諏訪敦の共同制作によって生み出された作品はきっと同時代のアーティストに多くの可能性を提示することと思います。
■イベント問い合わせ:コロタイプ技術の保存と印刷文化を考える会事務局
〒604-0093京都府京都市中京区新町通竹屋町下ル弁財天町301(株式会社便利堂内)
Tel075-231-4351 mail:collo-net@benrido.co.jp hp:http://www.benrido.co.jp
■展覧会お問い合わせ:
財団法人佐藤国際文化育英財団・佐藤美術館
〒160-0015東京都新宿区大京町31-10
Tel03-3358-6021 Fax03-3358-6023