新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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「やわらかな空の下で」彼らとともに生きていく 私たちが忘れてはならないもの。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
はかなげな細い葉っぱの道を、一匹の蟻が迷うことなく進んでいる。葉が揺れ、蟻はときどき立ち止まる。考え事でもしているのか、ほどなくしてまた歩みを進める。葉っぱはまた少し揺れ、浅すぎるほどの被写界深度の視界の中、登場人物の限られた小さな世界は形成される。世界はこんなふうに、小さなものたちの作り出す法則と習性によって、それらの繰り返しと相互作用によってできあがっている。
佐藤実咲のプリントは、小さな世界への思いにあふれている。ほどよいサイズと内容で構成され、はみ出すことも、大きく価値を変えることも、私たちの常識から逸脱することもなく、きれいに収まっている。
特別なことは何もない。何も起こらない。そのかわりに、私たちは小さな世界にゆっくり向き合う機会を得るだろうし、そういう機会そのものが日々の中で軽んじられていたことに思いあたるだろうし、小さな世界が実はしっかりと保持している驚くべき安定感というものについて考えるひとときを体験できるだろう。
カメラの中が解決不可能なハプニングだらけになるくらいなら、日々淡々と繰り返される「小さな世界の法則」が見え隠れするくらい世界が安定している方がいいのではないか・・・。佐藤実咲のプリントを何枚も眺めながら、僕は頭の片隅でこんなことを考えていた。
彼女は、「すべてのものは柔らかな空の下で繰り広げられている出来事。私は空や星にいつも感謝しながら空のことを考えながら写真を撮っている」という。これらの世界は、佐藤実咲という女性の感覚が世界とシンクロした結果だ。そして彼女のセンスによって丁寧に再構築された色彩(たいていの場合、大きく補正されている)を伴ってプリントに置き換えられた結果である。だが、淡々と撮り進む彼女は知っている。連綿たる関わりこそが、小さな世界をきちんと見つめるための「礼儀」なのだ、と。「やわらかな空の下で」彼らとともに生きていく私たちが忘れてはならないもの。そんな気持ちが彼女のプリントからそっと顔をのぞかせるのではないかと思っている。
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