新進気鋭の写真家 12名によるリレー個展
プロデュース:高橋周平(多摩美術大学教授)
企画・監修:大野純一(株式会社総合メディア研究所STING代表取締役)
photalk フォトーク
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時間の薄い皮膜の蓄積と、命の関係が、プリントの上にきれいに透けて見えている。
写真評論家/多摩美術大学教授 高橋周平
無人の築地市場は、そこに交錯するおびただしい種類の時間が、薄い皮膜のように、そっとそっと降り積もった場所だ。 和田咲子の写真を眺めていると、「今」という膜のすぐ下側に、1年前、10年前、30年前の時間が柔らかく重ねられていることが わかってくる。時間の膜が透けてくる、その膜のどこかに自分もいる/いた、という甘酸っぱい感覚に抱かれるのだ。 「昔」は、そこにもここにもある。見えにくくなった昔さえも、彼女が丁寧に焼き込んだ美しいモノクローム・プリントの上で、 こっそり顔をのぞかせている。「見えるもの、見えないもの」が棲み分けし、お互いを守り、節度を保っている世界。 プリントの上で小さな旅をしているうちに、その世界は意味を持って語りかけてくる。「今は今だけど、 今というものは昔と呼ばれる時間の膜によって支えられているのだ」と彼らは和田咲子の視線を借りて言いたいに違いない。
和田咲子は、今回はじまるリレー写真展「新進気鋭の写真家12名によるリレー個展」のトップを飾る。
若い世代なりの視線で、 彼ら/彼女らにしか見えない世界が、これからしばらくの間、次々に提示されていくことになるだろう。その世界にまず触れ、 共感もあり、違和感も避けられず、混在した感覚に自分を置いて眺めてみること、それがこの常識外れの大企画とも言える 「リレー個展」の楽しみだ。若い世代に、ときに立ち向かい、ときに抱きかかえ、檄を飛ばすことをおそれない写真家・大野純一氏 ならではの思い切った企画である。
ところで若い人たちのとてもすばらしい感覚の一つに、言葉の使い方がある。今回の和田咲子は、個展タイトルに「息の緒」 (いきのお)という言葉を選んだ。万葉にさかのぼる古い言葉で「命」を意味しているそうだ。この言葉を聞いたとき、 時間の薄い皮膜の蓄積と、命の関係が、ここにきれいに透けて見えてきた。彼女の写真世界が急速に立ち上がるのを感じた 瞬間だった。
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