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金氏は有形無形に関わらず存在する、あらゆる事象の境界線をテーマに制作を続けています。
例えば手元にグラスがあるとすならば、そこには既にあらゆる境界が存在しています。
グラスをグラスとして認識させる輪郭は、それと同時に周りの空間と内側の空間とを断絶させている境界線となります。
また、透明なグラスを通して見れば物は歪んで見えますが、それは固有の輪郭を崩壊させるフィルターのような役割としての境界と言うことが出来ます。
さらに、原料の硝石から液状となってグラスの形へと再び固定されるという流動するプロセス自体、金氏の言うところの「境界の不確かさ」に気付かせる一例です。
このように金氏にとっては事物のあらゆる側面が境界という言葉を中心として千変に流動しています。
非常に広い意味合いにおいては、金氏にとって作品制作は物の存在の根源を探る行為であるとも言えます。
今回児玉画廊|東京にて発表する「Smoke & Fog」は、広島市現代美術館のスタジオでの個展「Splash & Flake」(2007年)に更に手を加え再構成した内容となっています。
特に流動物(液状の物質やそれらを想起させる代替物を含め)を使用することによって、流れ落ちる氷柱のような形状、色が溶けたり滲んだりする様、樹脂やガラスの透過性あるいは可塑性がその流動する過程で動きを阻まれたように立体、あるいは平面状に固定されています。
金氏にとって、この流動性は一つの境界へ至るツールだと言えます。
全ての物の形や色などの個性を押し流し、覆い隠し、あるいは解きほぐしてしまう性質こそが、こうした作品上において逆説的に物に輪郭や境界線があるのだということを際立たせ、見る者の想像力はかえって物の輪郭を曖昧な形状の中に無理矢理にでも認めようとします。
一方、児玉画廊(大阪)で発表される「Hole & All」では、金氏にとってもう一つの重要なツールである表裏性を感じさせる内容となっています。
心理的、あるいは構造的に存在する物の表裏とは、金氏にとっては一つの境界であり、ある中間層を隔てて存在する鏡像的世界観です。
それは背後に潜む不穏な気配、不確かな存在、幽霊やモンスターのようなものであり、また中身の見えないブラックボックス、鍵の掛った宝箱のような期待と秘密に覆われたものです。
穴やパイプ、内部空間を有した容器の類は全て、金氏の手が加わることで裏側へ至る暗い通路として生まれ変わります。例えば最近のシリーズ、黒いインクやコラージュで構成された「black puddle」はその名の通り黒い水たまりを模していますが、それは、水たまりに映る鏡像としての別世界が口を開けている様と捉え直すことも出来ます。
配管を同色のグレーの樹脂で覆った新作ではグレーと言う色のもつ曖昧性とともに、素材の配管パイプが曲がりくねった暗い通路を内包するものとして不気味に立ち上がる様を想像させます。
また砂を満たした様々な容器で構成するインスタレーションにおいてもまた同様に砂という重たい流動性と何かを分厚く埋め隠すような秘匿性が、これまでの平面的な境界ではなく、空間的な境界を想起させます。
これまで、白色や輪郭線など、空白もしくは空虚、かつ鮮明なイメージがモチーフの主体であった
のが、より空間的な密度を増し、裏側を覆い隠すような性質を伴って、見るものの心理的な境界線に働きかけるような側面を見せ始めています。
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