諏訪敦展 「ふたたびあいまみえ」 舞踏家・大野一雄
2007年6月1日(金) - 6月30日(土) 12:00 - 18:00
ギャラリーミリュウ
協力:大野慶人 大野一雄舞踏研究所
「大野一雄(部分)」 2006 - 2007 oil on canvas 1199×2398mm
諏訪敦は武蔵野美術大学大学院修士課程を修了後、1994年より文化庁派遣芸術家在外研修員として2年間スペイン、マドリードに在住。彼の地でエントリーした国際絵画コンペで大賞を受賞し、そのキャリアをスタートさせました。
帰国後は絵画の原点回帰として写実表現の追求を続けましたが、そこに限界も感じていたようです。ところが2000年に開催された個展で、前衛舞踏の先駆者・大野一雄、慶人両氏の協力を得て、丸一年間取材し書き下ろしたシリーズを発表しましたが、この体験は諏訪に大きな示唆を与えたそうです。
最初は両氏の特異な肉体が持つ視覚的強度への興味が主な制作動機でしたが、視覚情報のみならず、触覚、嗅覚など肉体の感覚を総動員し、果ては対象の背後にある個人史や思考までも関心を拡張して一つの連作を描き上げたのです。
結果としてこのプロジェクトが、諏訪作品の特徴と思われる、考えられる情報を複眼的に取り込み、対象とのコミュニケーションの過程そのものにテーマを見い出すスタイルへの転換期となりました。
その後は個展での活動が中心となり、日本在住の多様な来歴を持つ女性たちを題材にし、標本的に絵画とインタビューを併記したシリーズ「JAPANESE BEAUTY」や、一般より募ったモデル協力者の生活空間を切り取り、本来秘匿されるべき寝姿を描写したシリーズ「SLEEPERS」などに結実しました。
諏訪が一度は終結を公言していた大野一雄とのプロジェクトの再開は、氏が100歳を迎えた昨年に実現しました。毎日を介護ベッドで過ごす氏との接見には、インフルエンザ予防注射の接種と厳密な時間制限が条件提示されましたが、それは楽観できない健康状況を物語りました。しかし12月28日に無事取材を完了させ、大きな絵画作品を1点制作。本展はその成果と資料を展覧するものです。
取材の間、諏訪は横たわる大野一雄の物体としての量と表層の強度やディテールを調べ記憶する事に腐心していたようですが、ある瞬間に窓からの清潔な日差しがすべてのモノの色や属性を剥奪し、刻まれた皮膚の皺が衣服の皺へと連続し、ひかりが全てを覆いつくしてまるでひとつのつながりの水面のように見せてくれ、デッサンする画家本人の指先や、床、介護ベッドにまで視界がひとつにつながり窓から眺望する市街風景にまで混じり合うようなイメージを得られたそうです。
出品作は氏を巨大に描いていますが、奇異にも感じられる本来のスケール感から逸脱させた人物の大きさは、人体への概念から自由になり、その幻視体験を瑞々しく描写するためかもしれません。
超絶的な絵画技術で知られる諏訪ですが、本展はそれだけでは括りきれない彼の絵画の一側面を、そして現在の絵画の行方を指し示すものになるはずです。
ギャラリーミリュウ
東京都中央区銀座6-10-10 第二蒲田ビル3F
TEL:03-5537-8733