<会期> 2022年3月5日(土)- 4月2日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休 *3月13日のみ日曜日開廊
ANOMALYでは、2022年3月5日 (土) から4月2日 (土) まで、渡辺豪 個展「所在について」を開催いたします。
渡辺豪 (1975年兵庫県生まれ) は、愛知県立芸術大学大学院在籍中より3DCGを用いた作品の可能性を探求し始めました。2002年にポリゴン*1) で構成された顔にヒトの皮膚画像を貼り付けた作品《“フェイス”》を発表、《フェイス (“ポートレート”) 》シリーズへと展開していきます。2009年頃からは同様の手法を用いながらも、モチーフを作家自身の身の回りにある本や食器、部屋などへと移し、身近な風景が物質的な制約や光学的な法則から離れて動き、変化をみせるアニメーションを制作しています。作品がもたらす整合性を欠いた物のあり様や光の振る舞いは、自明のものとして見ている世界を撹乱し、私たちが「何を見ているのか」を静かに問いかけます。近年は展示空間をアニメーションから延長される場所と捉え、複数チャンネルのインスタレーション作品を発表するなど表現の幅を広げています。
渡辺の作品制作において、極めて重要な要素のひとつが「光」です。2013年の五島記念文化賞美術新人賞受賞をきっかけに約1年間滞在したフィンランドで、太陽がほとんど沈まない「白夜」と、日照時間が極めて短い「極夜」の中に身を置き、これまで無意識のうちに習慣的に行っていた、光の変化によって昼夜を識別し、身体を同期させるという生理現象が全く機能しなくなる体験をしました。知覚・認識と身体感覚が大きく乖離する未知の体験を通じて、この世界に存在する物体が人間の目に向かってくる光の反射であるということ、そしてその光こそが身体への影響を強くもたらすことを意識する契機となりました。
久しぶりのギャラリーでの個展となる本展では、作家自身の「アトリエ」と「家」の二つの場所に関する新作アニメーション、昨年の恵比寿映像祭で日仏会館にて展示された、家の床に積み上げられた本をモチーフにしたアニメーション作品《積み上げられた本》、およびプリント作品を展示いたします。これらの作品のモチーフはいずれも日常見慣れた作家の身の回りのものです。そして実際にモチーフが置かれていた状況とは異なる全く別の場所や時間から持ち込まれた光によってそれらが照らし出されるという点で共通しています。
複数の時間や光源で構成される、緩やかに移り変わる光の連続パターンによって、観る者の視線は異なる時空を行き来し、そこに至るまでの時間と、そこから始まる次の時間への流れを意識します。物語的なモチーフや劇的な設定がなくとも、光の存在そのものがひとつのドラマとなり、光の加減で世界の見え方が変わることを如実に表現するこの絵画的ともいえる手法は、油絵を学び、よりリアルな表現を追求するべく、3DCGへと移行した渡辺ならではの特異な映像表現です。
近年の渡辺の代表作のひとつである《積み上げられた本》では、作家が住む家の床に積み上げられた身近なモチーフであり、人類の叡智の象徴でもある本が、様々な光によって照らし出されます。その様は、まるで人類のこれまでの思考の跡や、その知性や精神の豊かさや多様性をも示唆しているかのようです。
理論神経科学者のマーク・チャンギージーは、著書『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ』の中で、霊長類の色を知覚する能力・知覚が発達したのは、同類たちの皮膚が反射する光の波長分布 (スペクトル) の変化を識別するために進化したからだとする説を提唱しています。ポリゴンで構成された顔に、ヒトの皮膚画像を貼り付け、出力したフィルムの後ろからライトを当てる初期作品で、渡辺は、視覚のプロセスが人間の進化や意識の発生の問題と深いつながりがあることを、無意識のうちに早くも表現していたのかもしれません。
VR技術やアバターの開発など、メディアやネットワークが急速に発展する現況において、渡辺の作品は、わたしたちに「見ること」を再認識させ、身体感覚の変容や意識の覚醒をもたらす有効な視点を与えてくれることでしょう。
ANOMALY (アノマリー)
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