EXHIBITION | TOKYO
榎忠(Chu Enoki)
「RPM-1200」
<会期> 2020年12月5日(土)- 2021年1月31日(日)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 月祝休 *冬季休廊:2020年12月27日 ~ 2021年1月11日
ANOMALYでは、2020年12月5日(土)より、明けて2021年1月31日(日)まで、榎忠(えのき・ちゅう)個展「RPM-1200」を開催いたします。
本展タイトル「RPM-1200」は、榎忠の代表作のタイトルでもあり、旋盤の回転数(1200 Revolutions Per Minute)を表しています。生活者(*1)として定年まで金型職人として勤めあげた榎忠が、アフターファイブに旋盤を回し磨き上げた工業部品を、ひとつひとつ辛抱強く積み上げることで形づくられる《RPM-1200》。1mmの100分の1の精度で仕上げられた、かつて繊細な機能を有していたボルトなどの部品が、榎の手作業により無数の集合体として凝縮された本作品は「造形の洗練において榎の一つの到達点を示した」と評されたインスタレーションです(*2)。
本展は、この榎忠の代表作《RPM-1200》を中心に、《AK-47》や《COLT-AR-15》などの銃のシリーズや、《パトローネ》(*3)シリーズ、《半刈りでハンガリーに行く》、更に榎が70年代以降に開始した活動の資料や記録を含めて構成する、レトロスペクティヴです。
遡ること1970年、日本初の歩行者天国を、腹に大阪万博マークを「日焼け」させた榎がふんどしで闊歩、騒乱罪で連行され話題となりました。それまでは二紀会で絵を描いていた榎が、突然現代美術に覚醒しこのハプニングを敢行。同年、JAPAN KOBE ZEROを結成し、一気に反芸術の活動に転じます。
その後1972年、揃いの赤いシャツに身を包んだJAPAN KOBE ZEROのメンバー33人で400㎡に及ぶ巨大な白い布を運び、風をはらんで様々な表情へと変化する、人と風によるハプニングを敢行。神戸まつり当日だったためイベント関係者と見られたのか、誰にも咎められることなくハプナーたちは大胆な行動を繰り広げ、最後はクリストさながらに、その白い布で大きな噴水を押さえ込みました。
この頃より鉄製の大砲を制作し始め、79年になると武器をモチーフにした《Life Self Defense Force (LSDF)》を発表。耳を劈く爆音で割れんばかりにガラス窓を震わす空砲は観客を感嘆させ、砲弾の代わりに仕込んだ薔薇の花びらを散らしてみせる男前ぶりのハプニングは、今も健在です。
77年には当時社会主義国であったハンガリーに全身半刈りで訪問(榎忠はそののち4年という歳月をかけて反対側も半刈りにした完璧主義のツワモノです)。この頃、ローズチュウと名乗る榎の化身・髭の美女も出現、バランスが肝のシーソー式長椅子により客は席を立つことができないバー「Bar Rose Chu」をゲリラ開店し、伝説となりました。
2000年代になると、一般市民200人あまりが70丁の「銃」(もちろん榎の作品)を持って神戸の街を行進する「事件」を起こしましたが、それは個展会場から別のギャラリーまで作品を輸送する一時間半の過程だった、というウィットに富んだ実態でした。「このために『文化の日』が選ばれたのは彼一流の皮肉であった」(* 4)。ただし神戸は、かつて山口組の本拠地であり、作品が本物の銃だと思われ本物の銃で対抗される危険性、または驚いて通報される可能性が極めて高い、緊張感に満ちたハプニングでした。
この「行進」をパフォーマンスと呼ぶのはなぜかためらわれる。なぜならそれは「美術」であって同時に「現実」でもあるからである。「美術」は榎の、そして参加者の身体を通して現実化される。榎にとって「美術」とはそして参加者の身体を通して現実化される。榎にとって「美術」とは、観念によって私たちから遠ざけられている生の現実に触れる体験に他ならないのである。
―山脇一夫「榎忠展MADE IN KOBE」展覧会案内状より抜粋
その後の兵庫県立美術館の個展では、東京スカイツリーの廃材、合計およそ40tから成る作品を展示し、その上オープニングでは祝砲をぶっ放す暴れん坊ぶりで、美術館を「野生化」し、その制度の外周を押し広げてきた榎忠。
もしも榎がアメリカに生きていたら、クリス・バーデンやポール・マッカーシーと同格に破天荒なビッグスターと評されたはず、と某人に言わしめた榎忠の背中には老若男女大勢のフォロワーが後を絶たず、今でも美術界の異端児であり、カリスマであり続けています。
半世紀におよぶ活動を網羅したオール・アバウト・榎忠である本展は、美術内美術の観念から大きく離脱しながら、結果的に正史として記述されるであろう日本が生んだ榎忠という奇才の、軌跡と真髄をみる好機となれば幸いです。
「RPM-1200」 Revolutions Per Minute
この作品に使われている機械の廃材(スクラップ)はすべて、旋盤で溝を加えられ、穴を開けられて、その部品が持っていた機能を壊されています。溶接などの接着はせず、積み木のように積み重ねられることで生じる微妙なズレや緊張感が、まるで生き物かのように、ざわざわとした落ち着かない感覚を生み出します。
タイトルの「RPM-1200」は僕が長年生業として携わってきた古い旋盤の回転数(分速1200回転)です。40年間触り続けてきた鉄の魅力、美しさ、神秘を表現する作品を作りたいと考えてきました。そして、なぜ廃材になったのか、そこに関わる人の日常生活が浮かび上がって来た、それを金属でやってみたかった。それがこの不思議な光景を生み出したのだと思います。
アノマリー展によせて 2020年 榎忠
ANOMALY(アノマリー)
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