EXHIBITION | TOKYO
奈良原一高(Ikko Narahara)
「ヴェネツィアの夜」
<会期> 2016年9月24日(土)- 10月22(土)
<会場> Taka Ishii Gallery Photography / Film
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、9 月 24 日(土)から 10 月 22 日(土)まで、奈良原一高個展「ヴェネツィアの夜」を開催いたします。奈良原は、様々な場で繰り広げられる文明のあらゆる側面-「文明の光景」を独自の巨視的な視点で捉えており、その作品世界は国内外で高い評価を受けています。本展では、奈良原が 1964 年に初めて訪れて以来、魅了され、その後足繁く通い完成させたヴェネツィアに関する 3 部作のうちの 1 冊、『ヴェネツィアの夜』(1985 年)の収録作品より、70 年代末から 80 年代前半にかけて撮影された作品約 15 点を展示いたします。
奈良原が初めてヴェネツィアを訪れたのは 1964 年、1962-65 年のヨーロッパ滞在においてのことでした。船のヘッドライトに照らされ水の上に突如現れた神秘的な街並みに衝撃を受け、ヴェネツィアに魅せられた奈良原は、1973 年にエーゲ海の船旅の後ニューヨークへの帰途にて再訪を果たします。水による外の世界との隔絶を目論んだ水上都市の成り立ちと、張り巡らされた運河によって生まれた街並みの複雑さは、そこにある生の密度を高め、住まう人間の匂いをそこかしこに色濃く残していました。
その頃、1970 年から 74 年にかけ、計 4 年程ニューヨ ークに滞在しながらアメリカ各地の写真を撮っていた奈良原にとって、「宇宙に最も近い国アメリカの生活と対照的なヴェネツィア、その限りなく人間に近い姿」は以前にも増して魅力的に映りました。その後東京に居を移してからも、ヴェネツィアへの憧憬はその胸のうちに残り、奈良原は度々足を運ぶこととなります。
ヴェネツィアの優雅な美しさはいつか終わりのあることを知っている人生のよろこびのせつなさに似ている。(…..)僕がヴェネツィアに足繁く通いはじめた70年代は、僕の周りに死の影がはばたいていた時代であった。母の死をはじめとして、僕は貴重な友人を数多く失った。少年時代に経験した戦争による死の時代から久しく遠ざかっていた死の季節が再び僕に訪れはじめた。しかし、不思議なことに、ひとつの死が生まれるたびに僕はさらに一層ヴェネツィアに魅せられていった。そして、次第に陽光あふれる、光のヴェネツィアから夜のヴェネツィアへと僕の好みは傾いていった。自分を取り囲む死の気配をうちはらうためにも、ヴェネツィアが生む華麗な闇の領域ほど僕の心にふさわしいものはなかった。現実の死に比べれば、その光輝く闇はいまだ死より遥かに息づいている世界である。生と死、昼と夜とを超えた時間の中を果てしなく彷徨っている気持ちだった。そう、時間に死がないように、そこでは光も永遠の生命を持っているかに見えた。昼でもなく夜でもない生き生きとした奇妙な明るさがその冥府のような闇の中にはあった。そして、その輝く闇の中でヴェネツィアは密かに生まれ変わっていた。昼間の人影を追放したヴェネツィアは400年の時間を遡り、かつてアドリア海の花嫁と名付けられた栄光の姿をその闇の中に横たえていたのだった。
奈良原一高「ヴェネツィアの秘密」『太陽の肖像』白水社、2016年、pp. 304-309
「この世で起こるすべてのことが、遂には過ぎ去ってしまうことを、身をもってその時間とともに味わい尽くしてなお、歓びに生きている」街、ヴェネツィアへの写真家の関心は、サン・マルコ広場の回廊のアーチを収めた全長 40 メートルに及ぶ写真集『光の回廊―サンマルコ』(1981 年)、水上都市の輝く闇を捉えた『ヴェネツィアの夜』(1985 年)、そして自身にとって初のオールカラーの写真集となる『ヴェネツィアの光』(1987 年)から成る「ヴェネツィア 3 部作」の刊行として結実し、1985 年に上梓された『ヴェネツィアの夜』は翌年の日本写真協会年度賞を受賞しました。
Taka Ishii Gallery Photography / Film(タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム)
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