EXHIBITION | TOKYO
イ・ウォノ(Lee Wonho)
「The weight of the vacuum <空白の重さ>」
<会期> 2017年5月9日(火)- 6月17日(土)
<会場> Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku
<営業時間> 12:00-19:00 日月祝休
2017年5月9日(火)より、Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku にて、イ・ウォノの個展「The weight of the vacuum <空白の重さ>」を開催いたします。
イ・ウォノの作品として近年記憶に新しいのは、国立新美術館での「アーティスト・ファイル2015 隣の部屋 −日本と韓国の作家たち」展で展示された巨大な段ボールの家でしょう。この「浮不動産」という作品で使われている段ボールは、イ・ウォノがソウルや東京でホームレスがたくさん住む場所を訪れ、彼らが移住している段ボールの家を価格交渉の末、実際に購入したものです(それぞれのホームレスと交わした取引証明書と共に展示)。「家」は資本主義社会において、資産であり、財産を測るものさしであり、富の象徴そして憧れの対象にもなり得ます。しかしながら、こうした社会的に認められた「家」は財産ではなく、もっと本質的な意味での価値(外部から身を守る、寒さや暑さをしのぐ等)に基づくものであることを示します。イ・ウォノはこの作品で、わたしたちの考える価値とは何なのかを問いかけます。 そして、「家」に代弁される人間の欲望、資本主義社会において付随した「住む場所」として以外の、表層的で 虚無な価値を露わにし、視覚化しようとしています。
日本で初の個展となる本展では、「The White field」シリーズの中からサッカースタジアムに引かれたコートの 白線を集めて塊にし、白い平面として空間に再出現させた作品を展示いたします。競技において特定のルールに基づいて引かれた白線は、内側と外側を定め、人はそれに従いゲームを行い、また判断を下します。しかし、コ ートから分離され、展示スペースというコンテクストに現れた白線の塊は、その本来の機能を失い、定義された 境界はもはや意味をなくします。
このように、イ・ウォノは我々が普段何の疑問もなく持っている価値をその定義ごと解体し、全く異なる新たな次元に構築し直すことで、その差異から露わになる、過剰なき本質的な概念を喚起しようとします。資本主義社会に生きるわたしたちが、疑いもなく享受している価値観に改めて問いを投げかけるイ・ウォノの作品を是非ともご高覧ください。
尚、展覧会オープニングに合わせ、国立新美術館で上述の「アーティスト・ファイル 2015 隣の部屋」展をキ ュレーションし、今回の研究冊子に執筆をいただいた米田尚輝氏と、美術家の冨井大裕氏をお招きし、作家とのトークイベントを予定しております。合わせてご案内いたします。
■作家ステートメント
The White Field
誰にでも開かれた空間ではあるが、条件により、誰かにとっては自分たちの領域を、また誰かにとっては超えてはいけない線を意味する競技場の白線からアイディアを得たものが「The white field」シリーズである。スポーツ競技場の上に区画された競技場の白線、即ちテニスコートの赤土の上に引かれた幅5cmのラインパウダーを筆で収集したり、サッカーグラウンドの芝生の上に引かれた幅11cmの白いペイントラインをはさみで切り集めた。収集された白線はそれぞれのラインが持つ幅と長さの総合により、新しい面積へと換算されて現れる。
競技場の形を持ちながらも、規定や境界、規則を意味する線だけでなされた一つのwhite fieldが新たに作り上げられる。このwhite fieldでは、本来なら主となるべき赤土のコートや緑のグラウンドの代わりに境界や規則、規定だけが残ることで、かえって反語法的に、線が持っている本来の意味である境界や規定はその役割を失い、white fieldは一つの無化された空間へと還元される。このような構造に対する抵反と再配置により、私たちの社会の規則と秩序に対して、私は再び考える機会を持とうとしている。
Looking for
私が暮らしている地域の地下鉄駅周辺には不動産の広告、住宅売買のビラが所々に貼られている。殆どのビラは物件周りの環境や正確な位置情報が漏れていて、信頼を与えるには至らないが、華やかな色と大胆な謳い文句、価格、そしてきれいに整えられた室内空間のイメージなどで人目を惹く。このようなビラに表れている住宅売買情報には、もはや人生の痕跡を刻んでいく本来的価値としての「家」は意味されていない。むしろビラのなかの情報は、おそらく、価値・所有・欲望・現実・生存・剰余などの問題が複雑に絡んだ空間へと私たちを招くよう機能しているのであろう。
街のビラを収集した後、私はその上に金箔を施した。手で掴み取る前に壊れてしまう、薄く無邪気な欲望としての金箔は、ある瞬間また違う異面の欲望で自身を飾って現れる。不動産のビラの中の物件情報は、金箔の華やかさに埋もれ、詳しく読まない限りその存在に気づき難い。しかし、近づいてみるとビラに印刷された家のイメージは消え、その中に埋もれていたビラのテキスト、即ち具体的な金額や家の大きさに対する内容だけが、端のたわんだビラの中から見えてくる。
2017年4月 イ・ウォノ
Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku(ユミコチバアソシエイツ)
http://www.ycassociates.co.jp/
東京都新宿区西新宿 4-32-6 パークグレース新宿#206
tel:03-6276-6731