EXHIBITION | TOKYO
菅木志雄(Kishio Suga)
「広げられた自空」
<会期> 2018年5月25日(金)- 6月30日(土)
<会場> TOMIO KOYAMA GALLERY
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
小山登美夫ギャラリーでは菅 木志雄展「広げられた自空」を開催し、最新作約20点を発表致します。
菅木志雄は、60年代末〜70年代にかけて起きた芸術運動「もの派」の主要メンバーであり、同時代を生きる戦後日本美術を代表するアーティストとして、独自の地平を切り開いてきました。 インド哲学などの東洋的思想に共鳴した自身の哲学を基に、石や木、金属といった「もの」同士や、空間、人との関係性に対して様々なアプローチをしかけ、「もの」の持つ存在の深淵を顕在化すべく作品制作をしています。「もの派」への再評価が確固たるものになった今日もなお菅はその思考を深化させ、尽きる事のない制作への情熱が、作品の現在性を生んでいると言えるでしょう。
【近年の国際的な活躍と評価】
1968年の初個展以来、国内外約370回もの展覧会で作品を発表してきた菅の制作の歴史にとっても、近年の活躍は目覚ましいものがあります。2016年にはミラノのPirelli HangarBicoccaでの個展、ニューヨークのDia: Chelseaでの個展、スコットランド国立近代美術館でのカーラ・ブラックとの二人展を開催。2017年第57回ヴェネツィアビエンナーレ国際展「VIVA ARTE VIVA」では水上でのインスタレーションとして代表作「状況律」を再制作して大きな注目を浴び、同年長谷川祐子氏キュレーションによるフランスのポンピドゥ・センター・メッスで開催された「ジャパノラマ 1970年以降の新しい日本のアート」展にも出展しました。
作品は今年新たにポンピドゥ・センターとDia: Chelseaにコレクションされた他、テート・モダン、ダラス美術館、M+、グッゲンハイム・アブダビ、スコットランド国立美術館や、東京都現代美術館をはじめ国内の多数の美術館に収蔵されています。
菅は従来の認識概念を徹底的に問い直し、「もの」は単なる「固体」や人間の主観による「客体」でなく、石も人間も物体感としては同じであり、ものと人間や思考は対等だと考えてきました。菅の最初の海外展である1973年「パリ青年ビエンナーレ」では、主客二元論が主流の当時の欧州においては「これはアートではない」とまで言われましたが、近年の展覧会は菅の世界観が国際的に真に理解され、評価されたことを示す重要な契機となりました。
【本展「広げられた自空」、および同時期の展覧会開催に関して】
本展「広げられた自空」は、小山登美夫ギャラリーでの個展として2017年「分けられた指空性」以来7度目の開催となり、最新作約20点を発表致します。
また、同時期に8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryにて「菅 木志雄 – 写真と映像」(5月30日〜6月25日)を開催し、写真と映像作品、アクティヴェイションのドキュメント映像を展示。菅が監督、脚本を務めた映画「存在と殺人」(1988-99年制作)の上映もあわせて行われ、GINZA SIXにあるアートギャラリー「THE CLUB」においても、個展「放たれた縁在」(5月12日〜7月4日)で金属の立体作品を展示することになりました。
菅は通常見るものの在り方とは異なる方法で「もの」と「もの」、「もの」と「場」、「もの」と「人」をつなぎ、囲い、相互依存させ、まるでものが新たな形や状況まで立ち現わしているように感じさせます。
そうした「見えないもの」を表わすべく立体、平面、写真、映像と様々な手法を用いて多角的に、根源的な世界の在り方を抽出しようとします。これらの展覧会は、菅の作品世界を包括的に体験いただける、大変貴重な機会となるでしょう。
【本展出展作に関して】
森美術館チーフキュレーターの片岡真実氏は、作品集『菅 木志雄 広げられた自空 l 分けられた指空性』に寄稿いただいたテキストの中で、本展の出展作に関して、次のように評しています。
「(中略)今回の展覧会で壁面に展示される作品を例にとれば、それらは明らかに彼の彫刻やインスタレーションの延長線上にある。壁面にあるからといって、即座に絵画的な解釈をすることは難しい。そう思わせることのひとつは、状況の連続性にある。・・・(中略)いずれも一部分だけがベースをなす白の領域からはみ出していることによって、菅の意識が特定の枠組みや領域に限定されたものではなく、むしろその周囲の空間へも連続し、拡張していく可能性を示唆している。」
(片岡真実「状況に探りをいれる」、『菅 木志雄 広げられた自空 l 分けられた指空性』、小山登美夫ギャラリー刊行、2018年)
また、本展に際してのステイトメントの中で、菅は次のように述べています。
「(中略)もともとものがある現実的空間からさまざまなものを取り出して<ものー作品>を表わしたとき、そこで以前のようにものが生きつづけないような状態であれば、それは問題なのである。在るものは、在るように、無いものは無いようにである。ひとつの例でいえば、海の生きたサカナを殺さずに遠くまで運ぶというようなことが、<もの>を表わすときに必要な所作として大事なのである。」
(菅木志雄「現われるもの、現われないもの」、『菅 木志雄 広げられた自空 l 分けられた指空性』、2018年、小山登美夫ギャラリー刊行)
菅は広大な美術館の展示スペースを占めるような大きなインスタレーション作品や、本出展作のような壁面に展示される立体作品、そして「野展」と呼ぶ屋外での展示など、与えられた空間や環境との関係性を推敲し、存在を成立させます。その大小に関わらず、作品は一貫して空間へ多彩な働きかけをし、引き寄せ、変容させ、新たな空間を出現させ、観客に多様な空間の意識を呼び起こすのです。
【「もの」と空間、人の精神の相互依存、意識の解放】
美術評論家の松井みどりは菅作品に対して次のように評しています。
「(2015年小山登美夫ギャラリーの菅個展は)その根底にある、「もの」を通した人の精神の解放や、人の「主観」を通したものの変容の可能性の理解について、再考させるきっかけをつくった」
(松井みどり「ものの眺め、人の地点:菅木志雄の芸術実践における心とものの相互依存」、『菅 木志雄 志向する界景』、小山登美夫ギャラリー刊行、2017年)
「(菅作品を体験することは)どれほど知識を積み上げても埋められない知覚の隙間が世界には存在し続けることの実感が、尽きることない自由の感覚をもたらした」
(松井みどり「菅木志雄の方へ:生成する世界を捉える仕組」、『菅木志雄 – カタログ』、小山登美夫ギャラリー・東京画廊刊行、2006年、)
菅の作品はものと空間、人の精神の、対立ではなく、支え合う関係やむすびつきを示すことで、鑑賞者に自分がどういうものの見方をし、志向を持っているかという人間性への内省を促すようです。それは私たちの意識を解放し、新しい視点や活性化された精神を獲得するきっかけとなるでしょう。同時代の歴史的なアーティストの、ますますエネルギーに溢れ洗練された最新作をご覧にぜひお越しください。
TOMIO KOYAMA GALLERY(小山登美夫ギャラリー)
http://tomiokoyamagallery.com/
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
tel:03-6434-7225