EXHIBITION | TOKYO
大木裕之(Hiroyuki Oki)
「アブストラクト権化」
<会期> 2024年3月16日(土)- 4月13日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休
ANOMALYでは、2024年3月16日 (土) から4月13日 (土) まで、大木裕之 個展「アブストラクト権化」を開催します。本展では、最新作および《色目》など90年代の初期フィルム作品を含む全10点の映像作品、建築物としての立体作品《黒庵》、その他ドローイングなどを展示いたします。
大木裕之 (1964年東京都生まれ) は、東京大学工学部建築学科在学中の80年代前半より映画制作を開始し、学部在学時に発表した処女作《正しい欲望》で監督デビューを果たします。1989年に3時間に及ぶ大作《松前君の映画》が話題となり、翌1990年には《遊泳禁止》がイメージフォーラム·フェスティバルで審査員特別賞を受賞。フランスの著名な文学者で映画研究家のドミニク·ノゲーズから”ランボーの末裔”と絶賛されました。1996年には、高知県立美術館製作による映画《HEAVEN-6-BOX》が第46回ベルリン国際映画祭でNETPAC賞を受賞し、大木の名は世界に知られることになりました。その他にも、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」「バンクーバー国際映画祭」「ロッテルダム国際映画祭」「タオルミーナ国際映画祭」「サンダンス映画祭」「ニューヨーク·レズビアン&ゲイ映画祭」「ハンブルク·レズビアン&ゲイ映画祭」など数々の国際映画祭に招かれ、2022年には二作品が国立映画アーカイブに収蔵されました。
大木の活動は映画·映像制作のみに留まらず、ライブ上映、インスタレーション、身体パフォーマンス、ドローイングやペインティングなど、その表現手法は多岐に渡り、現代美術のシーンでも注目を集める稀代な存在です。1999年に世田谷美術館で開催された「時代の体温」展を皮切りに、「How Latitudes Become Forms : Art in Global Age」 (ウォーカーアートセンター、ミネアポリス、米国、2003)、サンドレット·レバウデンゴ芸術財団 (トリノ、イタリア、2003)、「六本木クロッシング:日本美術の新しい展望2004」 (森美術館、2004)、「第8回シャルジャ·ビエンナーレ」 (シャルジャ、アラブ首長国連邦、2007)、「Out of Ordinary」 (ロサンゼルス現代美術館、ロサンゼルス、米国、2007)、「夏への扉―マイクロポップの時代」 (水戸芸術館、2007)、「ライフ=ワーク」 (広島市現代美術館、2015)、「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラバンサライ 想像する人間の旅」(愛知県長者町会場、2016)、「歴史する!Doing History!」 (福岡市美術館、2016)、「M+ Moving Image Collection」 (M+、香港、2021)、αMプロジェクト2022「『判断の尺度』vol. 4 大木裕之|tiger/needle とらさんの墨汁針」 (gallery αM、東京、2022)、「恵比寿映像祭2023 『テクノロジー?』」 (東京都写真美術館、2023)、「高知県立美術館開館30周年記念 大木裕之 監督作品上映」 (高知県立美術館、2023) など、国内外の展覧会に多数参加しています。さらに昨年は、ロンドンのバービカン·センターで《あなたがすきです、だいすきです》 (1994) が招待上映され、香港のM+で同館コレクション作品の中から《色目》 (1992) が屋外大型ビジョンで上映されるなど、評価が高まっています。
本展では、三つの映像が建築的に配され、ロンドン、上海、東京の三大都市の映像によって成る最新作《アブストラクト権化》 (2023–2024) が初披露されます。その他にも、1998年から始まった、撮影/編集を厳密な構造のもとに行うデジシリーズの最新作《木三(ムミ)》 (2023–2024) では、3分×10章の作品構造の中で、自身の母の「死」と向き合いつつ、運命/世界を表出させます。更には、イスラエル、エチオピア、山形、などで撮影した映像により、人間の長い歴史/現在を紡ぎ出し、光(「オー」はヘブライ語で「光」という意味)を魅せる《オーマイゴッド!》 (2019–2024)、1989年より北海道松前町にてライフワーク的に撮影/制作を続ける「松前君」シリーズの最新作《松前君の映画2024》 (2024)、昨年の恵比寿映像祭でのコミッション·プロジェクトで制作·公開され、東出昌大氏の主演起用でも大きな話題を呼んだ、<映像/映画>と<ライブ/パフォーマンス>の実践の凝縮としてしての作品《meta dramatic》 (2023–2024) の最新バージョンなど、多数の新作、シリーズ最新作が一堂に集まります。
断片的なイメージと言葉が連なり、そして重なる、構築的かつ詩的な大木の映画·映像作品を、映画評論家のトニー·レインズは「大木映画のパラドックス」という論考の中で以下のように絶賛しています。
「世界とかかわり、意味をくみ取ろうともがく自我の働きを引き受ける点で、彼(=大木)は現在他のどの映画作家よりも徹底している。彼にとっては、自発性とコントロールの隙間の空間は、他の両極性-能動と受動の狭間、混沌と秩序の狭間、狂気と正気の狭間、オルガニスムと無感覚の狭間など-にあるものと同義である*。」
社会/世界/地球へ何をもたらすことが可能かを考え、極の間を揺れ動くことで、この世の歪んだ調べを整えたいと願う大木。彼の映像に触れたわれわれ鑑賞者は、現在の固定化された認識が揺さぶられ、それにより社会への問いが生じ、思考し、祈り、ことばを「権化」させていきます。大木は現代社会が機能不全と認識障害に陥っていると度々口にしますが、彼の作品はそういった社会で生きる私たちの凝り固まった概念、緊張した筋肉をほぐし、その時、気がつきもし得なかった認識をわれわれは得るのです。
大木は本展を構築するにあたり、「建築的に作っていく」と宣言しました。建築学科出身の大木は、今でも自身の映像作品と建築の密接な関係性を意識しています。例えば彼が描く綿密なシナリオは、一つの建築図面のようでもあり、また断片的な映像のそれぞれが、緩やかに連結し全体として成立するその構成は、大木にとって建築物のアナロジーでもあります。大木の考える建築には、いわゆる「建物」としての建築物だけでなく、人や物、時間やプロセスなど、実体のあるものから概念的なものまで含まれますが、映像作家として高い評価を得ながらも、自身のことを「建築家」とも称する大木にとって本展は、一つの建築物に他なりません。作品はもちろん、会場のインスタレーション、パフォーマンス、作品同士の関係性、鑑賞者との関係性、時間との関係性etc…が建築的に思考された展覧会が、われわれの目前にやってくるのです。
諸々の関係性が建築的に思考する、と触れましたが、大木はそれを、自身のアクションやパフォーマンスでも行います。大木の特徴のひとつに、作品の多くをシリーズ化させ、その構成を厭わずアップデートさせていくこと、同様に展覧会の構成もアップデートしていくことが挙げられます。それぞれの作品にはそれぞれの時間や空間が内包されているように、展覧会会場にもそれぞれの時間と空間が内包されています。異なるショット、つまり異なる時空間の絡み合いで大木の作品が構築されるように、展示空間も時間とともに生成変化していきます。大木はその都度の状況に対応しつつ、展示に変化を加えていくのです。会期中の大木のアクション、そしてそれにより何が起き、何がもたらされるのか、ご注目ください。
人間と物質の長い歴史を経ての現代、今。この度の個展では、それぞれ独自の様々な土地/人々/時間/リズム/色彩/言葉を持つ映画/映像10作品が展示空間全体に配置されます。観客ひとりひとりが展示空間を歩いたり立ち止まったりする時間の中で作品たちが発する瞬間のキ(気、機、綺、奇)の連続する波動を浴びることで、きっと人類の歴史の中で未知であるような微細なうごきが生まれ、現代社会の中で硬直しがちな意識、価値観、肉体、精神に〈愛と光と力がみちること〉
人類が応用してきた物質の力、と意のつみ重ねによる現代の巨大なシステム、観客ひとりひとりの持つ自然の絶大な神秘のシステム、の、複数の映像もまじえた個展会場にて出現するところの空間/時間/人間の間の〈美と信の権化〉
−大木裕之
大木の活動の全貌を捉えられるまたとない機会です。是非ご高覧ください。皆様のご来場をお待ちしております。
会期後半の4月3日(水) には、郡司ペギオ幸夫氏 (生命基礎論研究者)、αMプロジェクト2022「『判断の尺度』vol. 4 大木裕之| tiger/needle とらさんの墨汁針」を企画したキュレーター、千葉真智子氏 (豊田市美術館学芸員) をお迎えしてトークイベントを開催いたします。こちらも是非ご期待ください。詳細は、ArtStickerおよび弊廊のホームページやSNSをご覧ください。
ANOMALY(アノマリー)
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