EXHIBITION | TOKYO
西野達(Tatzu Nishi)
「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」
<会期> 2020年1月25日(土)- 2月22日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 11:00-18:00 / 金:11:00-20:00 日月祝休
西野達個展「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」開催にあたって
活動の主な舞台をホワイトキューブの外に置く西野達が目論むのは、公共性の高い場所に私的空間を唐突に出現させ、世界を異化すること。「笑い・暴力・セクシー」を標榜し、1990年代後半からテンポラリーに特化したパブリックアートの形態を用い、アートの新しい方向性を提示しながら時代の先頭を走ってきた西野達。グラフィティ風のストリート・ペインティングなどとはまったく別のストリート・アートで不可能を可能にしてきた彼が、ギャラリーでの展覧会を10年ぶりに開催します。
2020年1月25日(土)から2月22日(土)まで、会場はANOMALY、展覧会タイトルは「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」。
西野達は、街のモニュメントや街路灯などをインスタレーションに丸ごと取り込む格好で部屋を建設し、リビングルームやホテルに仕立て上げ、ホテルなら実際に「営業」するなど、普段見慣れた風景をその文脈をずらすことでダイナミックに異化させ、我々の固定概念を軽やかに凌ぐ、大規模なプロジェクトを多く発表してきました。
本展「やめられない習慣の本当の理由とその対処法」では、プライベートをパブリックな場に表出させることで日常的な観念を破壊し価値観の転換を迫ってきた西野が、屋外や美術以外の文脈を持つモノを屋内(=漂白されたギャラリーという特異な空間)に持ち込む、逆のプラクティスです。ギャラリー空間では見ることのない、様々なデイリーオブジェクトや身近なツールを用い、驚くべき手法で、ホワイトキューブに設置します。その壮大なアイデアは、あらゆる概念を凌駕し、ウンハイムリッヒ(*1)とも言える独特な空間を作り上げます。
例えば、屋内への搬入が悩ましいヘビー級の巨木、公道を走っていたはずの車両の断片、自宅にある家具や家電・・・。様々な日常的な場にあるモノが、本来あるべきコンテクストを剥奪されギャラリー空間に構成されたとき、その異物性が姿を現します。西野が作るモノの集積は、ローカルで地域文化を表象するようなモノでありながら、ある一定の観点や嗜好性から選ばれた様相はありません。その集積は、驚きと可笑しみをたたえつつ、同時に冷徹な客観性を帯びながら、意味を宙吊りにします。用途を無視することでオブジェクトそのものを還元し、モノが本来持つフォームを見事に浮かび上がらせます。
西野という巨人が操る、モノの意味の還元と交換、そのモノ本来が持つ驚きに満ちた姿は、どの文化に生きる人にも共通する異物感があり、我々の想像力をダイナミックに拡張します。
西野達(にしの・たつ、b.1960)は愛知県に生まれ、武蔵野美術大学を修了後、1987年に渡独、ミュンスター芸術アカデミーで彫刻を学びました。以後1997年からは公共空間を中心に大型プロジェクトを行い、現在はベルリンと東京に拠点を持ち、各都市を行き来しながら活動しているアーティストです。そのアーティスト名も、西野達、大津達、西野竜郎、西野達郎、Taturo Atzu、Tatzu Nishi、Tazu Rons、Tatzu Oozu、Tatsurou Bashi、そしてTazro Niscino・・・、と様々に変更し続けており、既視感をずらしながら多彩な顔を持つ、稀有な存在のアーティストです。
西野達の主な展覧会には、「横浜トリエンナーレ」(2005年)、「Ecstasy エクスタシー」(2005年・ロサンゼルス現代美術館)、「天上のシェリー」メゾンエルメス(2006年・東京)、「Kaldor Art Projects」(2009年・シドニー)、「あいちトリエンナーレ」(2010年)、「Manifesta 10」(2015年・エルミタージュ美術館・サンクトペテルスブルグ)などがあり、近年の主なプロジェクトに、「シンガポールビエンナーレ 2011」でマーライオンを取り込んでホテルを建設した「The Merlion Hotel」(2011年・シンガポール)、「TRACK」(2012年・ ゲント、ベルギー)で発表した中央駅の時計台を組み込んだホテルプロジェクト「Hotel Gent」、またマンハッタンに立つコロンブス像の周辺をリビングルームにした「Discovering Columbus」(2012年・NY)などがあり、国や街のシンボルと関係する大規模なプロジェクトを展開し、国際的な評価を得ています。
これらのプロジェクトは、行政が決して喜ばないであろう作品を作り続けているにもかかわらず、2017年度「芸術選奨美術部門文部科学大臣賞」を受賞。
以後も、大型屋外インスタレーション4点と写真9点からなる大規模なプロジェクト「BEPPU PROJECT」 (2017年・別府)、また翌年「Enfance / こども時代」(2018年・パレ・ド・ドーキョー、パリ)に参加し、そのエントランスに巨大なドールハウス「A Doll’ s House」を Amabouz Taturoの名で発表、大きな話題を呼び、その異名を確固たるものとしました。
(*1)unheimlich:
ドイツ語の「heimlich」は家の中や親しみのあるものという意味。その否定形の「unheimlich」を、奇妙なもの、見えていなかったものが表出する、という意味で使っている。
やめられない習慣の本当の理由とその対処法
俺の住むドイツで屋外作品を発表したのが22年前です。それ以来屋外の展示に特化し、常識の破壊活動と同時に新しい世界観を提示し突っ走ってきました。アートシーンの中だけでの出来事で終わらせるのではなく、普段はあまり芸術に関心をもっていない一般の人々にアートの可能性を問いたかったのです。人々の想像力が刺激される場は映画館や美術館の中だけにあるのではなく、日常に備わっていなければいけません。想像力なくして誰も自分の将来について考えることは不可能なので、そのチャンスは生きる上で不可欠で、保証されなければならないでしょう。
この経緯から俺は、室内で作品を見せることより屋外を、屋外で見せるなら市街地を、作品展示の場所として考えてきました。狭くて退屈なアートシーンを飛び出した俺にとって、ギャラリーでの展示は3回ほどだけです。そして今回は10年ぶりのギャラリーでの個展ということになります。
ANOMALYでは、室内を屋外で見せることが多い普段の活動の逆、つまり屋外に存在する材料で制作した作品を室内に展示することでギャラリーという閉じられた空間を外に結びつけることを目論み、さらにデビュー以来変わらない身の回りの品を使った作品を展示することで、観客がアートについて考える機会の日常化を狙いました。俺の作品のコンセプトの一つである「屋外と室内の逆転」「プライベートと公共の逆転」とも関係してきますが、屋外で作品を発表する意味と同じく日常生活にアートをねじ込むことを企てています。
人間の想像力の拡張が人類におけるアートの存在理由だと考えていますが、個々人の想像力の拡張が地域や国家の想像力へ影響を与え、ひいては人類の進むべき道を決定していきます。その意味で、芸術が世界を変えうる力を持つというのは正しいのです。子供時代から夢想家の俺は、今も夢を見ているのかもしれません。
西野達 2019年12月
ANOMALY(アノマリー)
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東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
tel:03-6433-2988