<会期> 2018年9月29日(土)- 11月4日(日)
<会場> MORI YU GALLERY
<営業時間> 12:00-19:00 月火祝休
モリユウギャラリーは9月29日(土)より、飯村隆彦・河合政之展を開催いたします。
本展では、ART BASEL HONG KONG 2018において展開したコンセプトをもとに、二人の新作と旧作を展示いたします。飯村は過去の60年代作品《LOVE》や《KUZU》、《White Calligraphy》を展示いたします。(16mmフィルム+blu-ray discエディション)。また《White Calligraphy》は映像に加え、キャンヴァスに描かれたカリグラフィを展示いたします。
河合政之は新作を展示いたします。
二人の共鳴し合う場をどうぞご高覧ください。
この展覧会では以下の方の多大なるご協力をいただきました。
感謝いたします。
瀧健太郎
浜崎亮太
小栁仁志
セラツヨシ (敬称略)
実験映画/ヴィデオアートの世界的パイオニア飯村隆彦(日本 1937-)と、ヴィデオアーティスト河合政之(日本 1972-)は、世代を超えてお互い親密な交流を続け、アヴァンギャルド芸術の時代と今日のハイパーメディア時代とを、深く共鳴し合う美学で結び繋げています。今回の展示では、その共通項を、Anatomic Delirium という概念によって描き出します。
〈哲学的〉なアーティストとして知られる二人は、ともに映像を表現ツールではなく思考する身体としてとらえ、その観点から映像の本質の探究に身を捧げています。彼らは、解剖学的ともいえる知的なプロセスによって制作する点でも共通しています。そして一方、そうした手法から生み出されるイメージやサウンドは、きわめて感覚的で、目をくらませるような、譫妄的な知覚を私たちに与えます。それは渾沌としながら有機的であり、映像の時間を物語への呪縛から解き放ちます。また、技術的な新奇さに溺れることなく、身体や感性と親和性を保つアナログゆえの美学に根ざしています。そして彼らのもう一つの共通項は、活動が一つのジャンルに限定されることなく、展示作品や上映作品とともに、同様のシステムを用いたライヴパフォーマンスでも、高い評価を得ているということが挙げられます。
60年代初めにそのキャリアをスタートさせた飯村隆彦は、60年代中頃よりNYと東京、ときにヨーロッパを拠点にその活動を続けてきました。彼は、日本のネオ・ダダ、フルクサス、NYアンダーグラウンド・シネマなどの芸術運動と関わりつつも、一貫して実験的な映像芸術に身を捧げ、世界の主要な現代美術館で個展を開催するなど、その独自の哲学的で洗練された美学は世界的に評価されています。また、日本はもとより世界でも最初のヴィデオアーティストの一人でもあります。
その初期作品《LOVE》(1962)では、静寂と轟音の中で、性別不能の肉体が交わりあいます。ノイズと身体が融け合い、主体と客体が撹乱されるその作品は、当時の日本の実験映画の歴史的な到達点として評価されています。またそのサウンドトラックは小野洋子によるもので、東京の高層アパートの上から風の音を録ったその音は、電気的なノイズミュージックのように聞こえるといわれています。かつて、飯村と小野のある邂逅の場に居合わせたジョン・レノンは、この作品に対して自作の曲《Love》を捧げました。
《White Calligraphy》(1967)では、飯村は七世紀に書かれた、日本最古の書物である『古事記』のテキストを、1フレームに一文字ずつ手書きしています。上映されると、それは読解不可能な明滅する線の動きへと変貌します。この作品は、意味が単なるデータへと溶解しする瞬間をあらわにして、神話における言語の誕生の記録を解剖してみせます。
70年代に入りNYを拠点とした飯村は、明確にコンセプチュアルなアプローチに向かいます。この時期は、特に時間と構造の問題を探究したミニマルな映像のシリーズが有名です。究極までイメージを削ぎ落とし、明滅する光と数字だけで構成された《100フィート/2分46秒16コマ》(1972)はその代表作です。それは、まさに解剖学的なスコアに基づき、めまいを引き起こすような鮮烈な印象とともに、時間の特異性を触知させるという、コンセプチャルアートとしての映像の傑作といえます。
飯村の初期ヴィデオアート作品である《タイムトンネル》(1971)は、カウントダウンする数字が、時間のトンネルの中を永遠に向かって通り抜けていくというものです。ヴィデオフィードバックの手法をシンプルに使用したこの記念碑的な作品は、私たちの時間的感覚がループするデータであるということを示したもので、そのコンセプトは後の河合政之のヴィデオ美学へと明快に継承されています。
90年代にそのキャリアをスタートさせた河合政之は、中堅のビデオアーティストで、東京を拠点にNYやヨーロッパをはじめ、世界的に活動を展開しています。彼は、ナム・ジュン・パイクの40年後輩として大学で美学を学び、飯村ら実験映像芸術の系譜を意識的に引き継ぎながら、ヴィデオの本質をアナログな電子データにみるという、その確固とした知的な美学によって知られています。そこから彼は、フィードバックというヴィデオの構造的特徴を、ヴィデオアートの本質的要素ととらえ、作品を展開しています。
《Video Feedback Configuration》(2013-)シリーズでは、ボックスや棚に収められた大小様々なアナログヴィデオ機材の間を、無数のケーブルが神経組織のように縦横無尽に張り巡らされています。機材とケーブルが織りなすループ状の閉回路を暴走するデータは、その場の環境の影響をも取り入れながら、リアルタイムに生成された鮮烈な色彩と光を艶かしく映し出します。それは、知的な解剖学的手つきや、その作品の与えるめくるめく身体的な感覚において、飯村作品を継承しています。またそれは、世界をフィードバックするデータととらえるナム・ジュン・パイクや、無限に増殖し接続する有機性を表現する田中敦子、あるいは欲望のミクロコスモスを提示する工藤哲巳といった、日本を代表する前衛芸術家たちを参照することもできるでしょう。この作品は、環境の電子的な揺らぎをそのまま取り込むことで、回路自体が変化していくという、フィードバックの美学が結実したものです。生成されるその幻影的なイメージは飯村の《LOVE》とも共鳴し合うものがあるでしょう。
MORI YU GALLERY (モリユウギャラリー)
http://www.moriyu-gallery.com
京都府京都市左京区聖護院蓮華蔵町4-19
tel:075-950-5230