EXHIBITION | TOKYO
牧野貴(Takashi Makino)
「コラージュとアンチコスモス」
<会期> 2023年10月7日(土)- 11月4日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休
この度、ANOMALYでは、10月7日 (土)から11月4日 (土)まで、牧野貴個展「コラージュとアンチコスモス」を開催いたします。
牧野貴(1978年東京都生まれ、神奈川県在住)は2001年に日本大学芸術学部映画学科撮影·録音コース卒業後に渡英、ブラザーズ·クエイのアトリエコニンクにて、映像、照明、音楽に関しての示唆を受けました。その後、カラーリストとして多くの劇映画やCF、ミュージックビデオ等の色彩を担当し、フィルム及びビデオに関する技術を高めながら、2004年より自身の作品上映を開始しました。自然現象や人間、街など既成のオブジェクトを、フィルムやビデオなど様々なフォーマットで撮影、編集段階において重層化して構築し、その無限に広がり続けるような極めて有機的で独創的な牧野の映像作品は、国際的に高く評価されています。現在は日本を拠点に、映画、音楽、インスタレーション、オーディオビジュアルパフォーマンスなど世界各地で発表しており、Jim O’Rourke、大友良英、坂本龍一、渡邊琢磨、Machinefabriek、Lawrence English、Grouperなど著名な音楽家とのコラボレーションも活発に行っています。
また、2012年にはロッテルダム国際映画祭短編部門でグランプリにあたるタイガーアワードを受賞するなど、海外の国際映画祭での受賞は多数にのぼります。近年では、映画祭の他、埼玉県立近代美術館、東京都写真美術館、東京都庭園美術館、森美術館、国立新美術館、ドクメンタ14 (ギリシャ)、サンフ ランシスコMoMA、MoMAPS1、ニュー·ミュージアム·オブ·コンテンポラリー·アート (アメリカ)、ホワイトチャペルギャラリー (イギリス)、オーストリア映画博物館、など国内外の美術館で作品が展示上映されています。
牧野は身の回りのものを自身で撮影した、多量のフィルムやビデオ素材を駆使し、何層ものオーバラップを施すことで重層的な世界を構築していきます。そこにノイズ/エレクトロニクス·ミュージックを重ねることで、身体感覚を帯びた作品としての性質が強められ、鑑賞者は個別の体験として牧野の作品に触れることとなります。
本展にて初めて発表される新作《Anti-cosmos》は、井筒俊彦著『コスモスとアンチコスモス』から大きな示唆を受けています。同書で井筒は「コスモス」のことを「有意味的存在秩序(有意味的に秩序づけられた存在空間)¹」と定義し、「数限りない個別的意味単位によって構成される一つの複雑な秩序体、つまり無数の意味単位(いわゆる事物、および事物可能体)が多重多層的に配列されて作り出す一つの調和ある、自己完結的全体²」と説明しています。一方「アンチコスモス」の語は、決して「コスモス」の否定ではなく、あくまでも刺激を与え、コスモスを解体し、私たちの眼差しに揺さぶりをかけ続けることに主眼が置かれています。
牧野は本展に際して、以下のように語っています。
今回展示する作品群は1部初期コラージュ作品集を除き殆どがコロナ禍 (2020年~ 2022年)に制作された。2018年に[Memento Stella]を制作する動機となったのは、もうこのように世界を旅しながら作品を制作し発表する事は出来なくなるかも知れないという未来に対する強い懸念と不安を感じていたからだった。はたしてそれは現実となり、これまでに経験したことの無いような閉鎖的で窮屈な世界を生きる事を突然強いられた。そのような状況の中、自分に出来た事はいつ誰に見せる事が出来るかもわからない作品をひたすら制作する事だった。それは完全に自分のアトリエ内でのみ行われ、数々の紙素材と自分がかつて撮影した膨大な量の映像素材と再度向き合い、夢想し、手を動かし続けるという、孤独で、まるで送る宛のない手紙を永遠に書き続ける作業のように感じた。
その結果は数多くの紙媒体のコラージュ作品と、二本の映像作品として結実した。
今回の展示のメインとなる[Anti-Cosmos]は井筒俊彦氏の著書「コスモスとアンチコスモス」からインスピレーションを受けて制作された。この著書は私がこれまでの芸術活動の中で探求してきたコスモスとカオス、そしてミクロコスモスとマクロコスモス、外的イメージと内的イメージの関係性等の考えに大きな示唆をもたらした。自分がこれまで極端なアブストラクト表現において実践してきた活動は、一貫して鑑賞者の想像力を刺激し増幅させる装置としての映画作品を制作し、世界中で発表する事だった。アンチコスモスとは既に存在しているコスモス (秩序、常識、 固定観念とあえて解釈する)を刺激し新たな世界への扉を開放しようとする行為そのものの事を指すが、自分の活動そのものがアンチコスモス的だと言える事に気付いた。これまでに使用したことの無いようないくつもの具体物が撮影された映像を、幾千も重ね合わせ合成し反響させ、世界共通の記憶のような光の渦を制作した。もう一本の映像作品[Microcosmos]は、数多くの紙媒体のコラージュ作品を使用した短編映画。限られた素材と自分の想像力だけで、どのような無意識化への予期せぬ旅が可能なのかを実践した。コラージュ制作による瞑想体験の中で得た夢の断片のような光景を静かに紡ぎ、星座のように配置した。
牧野貴
長く人々は何らかの存在論的対立を作り出し、自己完結した、身動きの取れない互いのコスモスを示めし合い、いがみ合いを続けてきました。ウクライナ戦争とコロナ禍を目の当たりにした私たちは、そのことを痛切に感じています。牧野は自身が映像と並行してコラージュ作品を作ることに対し、映像と同様にそれぞれの素材がお互いを殺しあわず、生かし合うことで作品が生まれることへの思いを語っています。
世の中は混沌を極めているとはまったくの誤読で、世の中はコスモスを求めすぎている。一つのイズムへと、一つの構造へと、世の中が整理整頓されていった先に待っているのは果たして桃源郷でしょうか。
牧野の作品を通して、自身の閉じられたコスモスの扉を開き、新たな世界を発見して頂ければ幸いです。
また本展に際し、長年に渡って牧野の作品を追ってきた、批評家/キュレーターの梅津元氏にテキスト「牧野貴-無意志的記憶または予感の芸術」を寄稿していただきました。是非、あわせてご一読ください。
ANOMALY (アノマリー)
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