EXHIBITION | TOKYO
今井麗(Ulala Imai), 宇治野宗輝(Muneteru Ujino), 大木裕之(Hiroyuki Oki), 開発好明(Yoshiaki Kaihatsu), 髙山陽介(Yousuke Takayama), 永田康祐(Kosuke Nagata), エレナ・ノックス(Elena Knox), 潘逸舟(Ishu Han)
「Echoes of Monologues」
<会期> 2020年9月16日(水)- 10月10日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 / 金:12:00-20:00 日月祝休 *ただし、9/20 (日)、21 (月・祝)は開廊致します。
ANOMALYでは、来る2020年9月16日から10月10日まで、ギャラリーアーティストによるグループ展『Echoes of Monologues』を開催いたしますのでご案内申し上げます。
「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。
(村上春樹「一人称単数」文藝春秋社)
世界中を震撼させているCOVID−19の発生から半年以上が過ぎました。一時は収束に向かうかと思われた未曽有の事態は一向に収まる気配もなく、9月中旬現在、90万人近い死者と2700万人もの感染者を出し、人類を脅かし続けています。
この状況下、他者との接触、移動はことごとく抑制され、感染予防のための必需品とされるマスクは人々から表情を奪い、そしてインターネットを通じたモニター画面での交流は時間や距離を超えて人々を瞬時に繋ぐものの、感触、体温や匂いといった有機的な生き物らしさは完全に遮断され、望むと望まざるとに関わらず他者との関係が希薄になっています。
しかしながら、緊急事態宣言下、 「Stay home」というスローガンのもと自宅に閉じこもり、通勤や通学に費やしてきた時間を得た私たちは、先の見えない未来への不安に怯えながらも、思い思いに、そして時に内省的な時間を過ごす自由を与えられたのではないでしょうか。
教育をはじめとした社会活動、経済活動、そしてプライベートな人間関係までが大きく変化を強いられ、もはやコロナ以前と同じ生活には戻れないというほぼ確信に近い思いの中で、人生の何を楽しみ、信じ、何に向かって生きるのか、様々な作家の”monologue”に触れ、改めて自分とそして他者を見つめ考える契機になればと思います。
本展は、「日産アートアワード2020」でグランプリを受賞した潘逸舟(b.1987) のインスタレーション作品からスタートいたします。潘は、等身大の個人の視点から、社会と個の関係の中で生じる疑問や戸惑いを、自らの身体や身の回りの日用品を素材にしながら、映像、インスタレーション、写真、絵画など様々なメディアを用いて表現してきました。神戸アートビレッジセンターで今春開催された大規模個展のために制作され、関東圏では初披露となる新作「ほうれん草たちが日本語で夢を見た日」は、移民の歴史や現状をリサーチする中で、外国人技能実習生と共に農業労働に従事した体験から生まれました。刈り取られたほうれん草がトラックで運ばれていく情景の中で生じた錯覚を、自身のアイデンティティと重ねながら、言語における当事者と他者の関係性を詩的に可視化しています。
潘は、等身大の個人の視点から、社会と個の関係の中で生じる疑問や戸惑いを、自らの身体や身の回りの日用品を素材にしながら、映像、インスタレーション、写真、絵画など様々なメディアを用いて表現してきました。これまで参加した主な展覧会に「Whose game is it?」(ロイヤルカレッジオブアーツ、ロンドン、2015)、「In the Wake – Japanese Photographers Respond to 3/11」(ボストン美術館、2015/ジャパンソサエティー、NY、2016)、「Sights and Sounds: Highlights」(ユダヤ博物館、NY、2016)、個展「The Drifting Thinker」(MoCA Pavilion、上海、2017)、「アートセンターをひらく第 I 期」(水戸芸術館現代美術センター、2019)、「Thank You Memory −醸造から創造へ−」(弘前れんが倉庫美術館、2020)などがあります。
「あそびのじかん」(東京都現代美術館、2019)での大規模なインスタレーション作品が記憶に新しい開発好明(b.1966)は、代表作のひとつである白い発泡スチロールを素材とした茶室『発泡苑』を設置。日本独自の発展を遂げた個と個が対峙する小宇宙が美しく白く光を放ち、その中では「インタビューであり、かつモノローグである」という矛盾した映像作品 『interview』(2001年)が流れます。モグラに扮したパフォーマンスやワークショップなどで日本各地に出没し、活躍する開発は、海外においても発表の機会が多く、「Dia del Mar/By the Sea」(PSI MOMA、2002)、「おたく:人格=空間=都市」(ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館、2004)、「ベルリン-東京、東京-ベルリン」(ニューナショナルギャラリー、ドイツ、2006)、「Jump Ship Rat”POP-UP”」(イギリス、2008)などに参加しています。東日本大震災後、被災地におけるプロジェクトはライフワークとして継続中です。
日本のみならず世界各地で個展を開催、また、ビエンナーレや企画展にも多数参加、家電や車、楽器などの量産品を再構築したサウンド・スカルプチャーや映像、あるいはそれらを用いたパフォーマンスで知られる宇治野宗輝(b.1964) は、宇治野本人による「日本人英語」の一人語りで進行する映像シリーズ、『プライウッド・シティ・ストーリーズ』を発表します。今回発表される映像作品では、先の『ライヴズ・イン・ジャパン』に登場する家電や、日本の住空間を中心に宇治野の原風景が語られます。幼少期、新たに生活に割り込んできたブラウン管テレビが、畳にその足を食い込ませていた違和感や、陶器や漆器に見出される陰、闇などを愛でる陰翳礼讃の日本の美意識に対して、家庭で使われ始めたタッパーウエアの工業的な透明感など、外来文化に浴し共生してきた、現代の日本の生活様式を批評的に再考します。
現在、横浜トリエンナーレに参加中のオーストラリア出身のエレナ・ノックス(b.1975)は、デジタルメディアやパフォーマンス、立体、音楽、インスタレーションなどあらゆるメディアを横断する作品を制作しています。本展では先日終了した森美術館の「未来と芸術」展、そしてこの秋バンコク・アート・ビエンナーレに出品するActroidシリーズの最新作、一人の女性が静かにアンカニーな視線を投げかける『The Host』を発表します。この日本製の最先端のAIロボットを主人公にしたシリーズは科学技術が発達した未来におけるアイデンティティや信念のもつ役割について、またジェンダーや人格、非現実的な(または浮世離れした)存在感、むき出しにされた社会状況への新たな展望を探求する作品群であり、私たちは自らの最大の孤独を、遠い世界で乗り越えようとするというノックスの思考が見て取れます。
主な展覧会に「Snoösphere」(The Big Anxiety、シドニー、2017) 、「AS-Helix: The Integration of Art and Science in the Age of Artificial Intelligence」(中国国家博物館、中国、2017)、「Synthetic Mediart」(台北エキスポパーク、台湾、2017)International Symposium on Electronic Art」(アジアカルチャーセンター、韓国)、「Algorithmic Art: Shuffling Space and Time」(香港市庁舎、香港、2018)、「北京メディアビエンナーレ」(上海明当代美術館、中国、2018)があります。
社会制度やメディア技術、知覚システムといった人間が物事を認識する基礎となっている要素に着目し、あるものを他のものから区別するプロセスに伴う曖昧さについてあつかった作品を制作する永田康祐 (b.1990) は、『Translation Zone』(2019)を展示します。日本で揃う材料を使って他国の料理を作りながら、言葉を別の言語へと翻訳する難しさと、そこに生まれる創造性について語ります。そこでは、文化や言語が厳密に翻訳されず、誤訳が生じ、互いが混ざり合ってしまうような状態に、ある種の豊かさが見いだされています。コンピュータなどのデジタルメディアや、言語・文化といった社会的背景は、私たちの考え方やものの見かたをどのように形作っているのか。コンピュータによる処理や認識のあいまいさや、文化や言語の混じり合いを示すこれらの作品は、思考や認識が常に変化する可能性へと開かれていることを表しています。今まで参加した展覧会に「あいちトリエンナーレ2019:情の時代」(愛知県美術館、2019)、「オープンスペース2018:イン・トランジション」(NTTインターコミュニケーションセンター、2018)、「第10回恵比寿映像祭:インヴィジブル」(東京都写真美術館、2018)などがあります。
映像というメディアを通して「思考すること」を真摯に探求し続け、わたしたちの生きるこの世界を捉え、肯定し、また更新することのできる稀有なアーティスト、大木裕之 (b.1964) は、東京大学工学部建築学科在学中の80年代より映像制作を始めました。1991年からは高知県にも制作活動の拠点を置き、初期の代表作品を立て続けに制作、1996年には『HEAVEN-6-BOX』で第45回ベルリン国際映画祭ネットパック賞を受賞しました。主な展覧会に「時代の体温」(世田谷美術館、1999)、「How Latitudes Become Forms」(ウォーカーアートセンター、米国、2003)、「六本木クロッシング」(森美術館、2004)、シャルジャ・ビエンナーレ(アラブ首長国連邦、2007)、「Out of the Ordinary」(ロサンゼルス現代美術館、米国、2007)、「マイクロポップの時代:夏への扉」(水戸芸術館現代美術センター、2007)、「ライフ=ワーク」(広島市現代美術館、2015)、「あいちトリエンナーレ 2016」などがあります。また、香港のM+をはじめ国内外の美術館に作品がコレクションされています。
本展では、大木のライフワークと言える、1989年から毎年1月に撮影を続けている『松前君シリーズ』の中から、傑作と名高い、1992年1月初旬の10日間に北海道の松前町で撮影された16ミリ映像作品『松前君の旋律』、そして、2004年から毎年5月に撮影が続けられている『メイ』シリーズから、今年5月に東京、岡山、高知で撮影された最新作『メイⅣ』を上映展示いたします。作家の視線(カメラ)によって捉えられた、人々、光、風景が、無編集ながらも緻密に計算された日記形式によって構成され、作家自身の思考の変遷とともに映し出されます。
伝統的な木造彫刻をベースに、平面に近い木版やレリーフ作品の制作、台座の在り方を熟考した提示方法など、現代における「彫刻」の概念そのものを真摯に追求している髙山陽介(b.1980)は、2017年以来制作を続ける『キス』のシリーズの最新作を展示。荒々しいチェーンソーの痕跡や木肌を流れる塗料の滴りからは、素材と対峙する髙山の精神性が垣間見え、あくまでも個人的な感情や記憶を追求する作品の中に、「こもる」今の我々の姿が投影されているようです。時を同じくしてISETAN MENS館1階では9月23日より高知県の須崎市で滞在制作された髙山の大型レリーフ作品もご覧いただけます。主な展覧会に、個展「Unknown Sculpture Series No.7 #4 朝のうた」(gallery21yo-j、2017)、「中庭」(CAPSULE、2016)、グループ展「高柳恵理×髙山陽介×千葉正也」(多摩美術大学 八王子キャンパスアートテーク・ギャラリー、2017)、「コレクション+ 行為と痕跡」(アーツ前橋、2016)、「囚われ、脱獄、囚われ、脱獄」(駒込倉庫、2016)があります。
今井麗(b.1982)の描く油彩画は、こんがり焼けたトーストとバター、皿の上の色とりどりの果物、折り重なったコアラやくまなどのぬいぐるみや、アニメや映画のフィギュアなどの親しみあるモチーフと、素早く無駄のない筆致、奇妙なまでの緊張感と静寂に満ちた画面により、親密で暖かな様相を湛えながらも、観る者を独自の世界に一気に引きずり込むほどの力を秘めています。本展では今井の最新ペインティング約20点を展示いたします。平凡な日常を取り囲む身近なものから次々に生み出される生命感溢れる瑞々しい表現は、コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばし、わたしたちに生の喜びや可能性を示唆するかのようです。来年は、作品集の出版を記念して、PARCO MUSEUM TOKYO、ロサンゼルスのNonaka-Hill、ANOMALYの3箇所で個展が開催される予定です。
新作、未発表作品を含む様々なモノローグがエコー(反響)し、複雑で多様性のある思考の可能性を提示するグループ展、是非ご高覧いただければ幸いです。
ANOMALY(アノマリー)
http://anomalytokyo.com/top/
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
tel:03-6433-2988