彫刻の森美術館は、昭和44年の開館以来、豊な自然の中に彫刻を開放し、見る人と現代彫刻との新しいふれあいの場を作ってきました。しかし、近年、われわれ人間の手による地球規模の環境破壊が顕著になり、環境の保全や自然への回帰が社会的な課題になっています。その傾向は芸術の世界においても同様で、自然との関わりや"場"との共生が求められています。
"森"は古来より、神話や信仰、文学など知的磁気の発生する場所として様々な想像を可能にしてきました。また、人々に恩恵をもたらす生物の宝庫として、その存在価値は今までになく高まっています。今、創造の力や千恵、休息を授ける自然の尊さを再認識し、自然と人間の関係を問い直す必要があります。
その取り組みとして、彫刻の森美術館では加藤泉展を開催します。加藤は、2007年ヴェネチア・ビエンナーレ国際企画展参加など、近年、とみに成長している注目の作家です。当初は油彩画を中心に制作していましたが、閉塞感から脱却するために、2005年から彫刻(木の直彫りに彩色)を作り始めました。その彫刻は、あたかも絵画が立体化したようで、アフリカ彫刻を思わせるプリミティブ(原始的)な存在感を放っています。モティーフは風景の中にたたずむ人間(原初的な形をした胎児~成人)であり、突起部が伸びて花や芽、根に変容する植物性が顕在しています。
無題 2010年
木、アクリル、石
h.166×w.230×d.230cm
(サイズ可変)
高橋コレクション蔵
撮影:渡邉郁弘
本展覧会では、植物シリーズの彫刻を中心に、人と植物が融合した芸術による新しい風景を作り出します。加藤泉の作品を通して自然をともにある人間を様々な視点から見つめ、自然と芸術の力を感じ取ることで、これからの"森"の在り方を再考する機会とします。
無題 2007年
カンヴァスに油彩
h.194×w.130.3cm
個人蔵
撮影:木奥惠三
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