神話・歴史画は、ルネッサンスから近代にいたるまで西洋美術において最も推奨されたジャンルです。日本美術もその例にもれず、『記紀』等の古代神話や歴史の世界は画家たちの霊感を刺激し、創造力豊かな作品を生み出す原動力となってきました。
神々はもとより英雄や偉人たちを創出し民族誕生の根幹に触れる物語は、近代国家の形成が急がれた明治時代に歴史の再編を意図して広く図像化されるようになりました。西洋のアカデミズムを規範とした洋画の移植が試みられると、西洋や東洋の伝説や神話と融合されながら歴史画の主題として盛んに取り上げられます。明治後半に入ると、国家意識の昂揚を背景に新たな伝統美術の創出を目指して絵画化される一方、異国への関心の高まりの中で浪漫主義的作品を生み出す重要な着想源となりました。
このように、「神話」は、時代の要請や価値観、さらに宗教観の多様化の中で形成され変貌してゆきますが、それは明治以降本格的に近代化を進めた日本美術のアイデンティティーが築かれてゆく歩みと軌を一にするものともいえるでしょう。
本展は平常遷都1300年を記念して、日本人の心の原点を振り返ろうとするもので、明治から大正期にかけて描かれた近代日本の洋画・日本画による神話画・歴史画の名作を展観し、近代日本絵画の形成を巡るとともに、日本人の美意識の源流を探ろうとするものです。
浦島図 山本芳翠 1893-95年 岐阜県美術館所蔵 10月29日から展示
羽衣天女 本多錦吉郎 1880年 兵庫県立美術館所蔵 通期展示
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