すべて腐らないものはない―中林忠良はこの考えを根底におき、腐蝕による銅版画を制作しつづける美術家です。
中林忠良は1937年、東京に生まれました。1959年に東京藝術大学絵画科に入学、油彩画を学びますが、しだいに油絵の具の感触になんともいえぬ違和感を覚えるようになります。そんなとき、中林は銅版画の詩人とも謳われた駒井哲郎と出会います。駒井は東京藝術大学で初めての専任教師として、版画という分野で教鞭をとった人物でした。中林は駒井哲郎の白と黒による表現世界に魅了され、銅版画に魅かれていきます。幼年時代をすごした新潟の雪深い風景のイメージがその世界に重なったことも大きな要素だったと中林は回想しています。
制作にあたり中林が選びとったのは、銅版を酸溶液に浸して制作する腐蝕銅版画という技法でした。エッチングとも呼ばれるこの技法は、酸によって金属が溶かされる、つまり腐蝕されてゆくという性質を利用したものです。銅の板は時間とともに酸溶液の中で腐蝕され、形を崩してゆきます。刻一刻と変容してゆくプロセス、朽ちてゆくその情景が中林の脳裏に「すべて腐らないものはない」という観念とその具体的なイメージを与え、そこにこそ彼は強く魅せられたのでした。
中林忠良「1969-14 異端への傾斜?」
1969年 424×576?
エッチング、ソフトグランドエッチング、アクアチント、ディープエッチング
この展覧会は中林が銅版画と出会った1961年から現在にいたる48年間の創作活動をたどるものです。この創作の歩みは7つの局面に分けられ、それに版画集も加えた8部構成で、全135点の作品によって提示されます。これにより、作者が探求しつづけている表現の核心に迫り、彼が一貫して求め続けている世界観とは何かを考えてみたいと思います。
また同時に、この機会に、腐蝕銅版画(エッチング)の魅力とその表現の特質に触れていただければ幸いです。
中林忠良「囚われる風景 ?」
1973年 453×565?
エッチング、アクアチント、メゾチント
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