現代美術シーンで活躍してきた2人のディレクターによって中央区新富に新しくオープンするギャラリー「ARATANIURANO(アラタニウラノ)」。そのこけら落としとなる記念すべき第一回目の展覧会として、加藤泉の新作個展「人へ」が開催される。
加藤泉プロフィール
「無題」 2007年 キャンバスに油彩
(c)Izumi Kato
Photo by Takashi Yamazaki
1969年、島根県に生まれた加藤泉は、武蔵野美術大学で油絵を学び、卒業後、数年のブランクを経て画家としてのキャリアをスタートした。
一貫して「生きもの」を描いてきた加藤泉。その始まりは、胎児とも昆虫ともつかないような原初の生命体のようでもあった。
その後、その生き物は、作者自身と絵との相互作用によって、キャンバスの中でゆっくりと育てられ、形を整え、変態し、羊水をまとったような「人のかたち」を帯び始める。
「絵と私の関係が対等であり、かつ、私にとって新鮮であるよう、持っているものすべてを使って、最善をつくすのです」と加藤は話す。
「無題」 2006年 H116.7×W80.3cm キャンバスに油彩
(c)Izumi Kato
写真提供:東京都現代美術館
Photo by Keizo Kioku
時に境界線のはっきりしない不安定な色彩の中から、時に眩しいほど鮮やかな色彩の中から現れ、不気味さ、愛らしさ、空虚さ、暴力性、様々なものを感じさせながらも、その「存在そのもの」としか言い様のない、「強烈な何か」を観る者に投げかけてきた。
一方で、その絵画作品を補完するような形で、木彫作品も併行して手がけるようになる。
「lonely planet 孤独な惑星」展(水戸芸術館現代美術センター/2004年)および「Little Boy:現代のポップカルチャー」展(ジャパンソサエティー・ギャラリー、ニューヨーク/2005年)で発表した、巨大な頭部をたずさえ、不安定にも立ち上がろうとする、巨大化した赤子のような彫刻作品は、プリミティヴ・アートのような直接性を持ちながらも、そこにも収まらない存在感を放ち、今でも鮮烈な印象を残す加藤の代表作となっている。
「無題」 2006年 H223×W40×D45cm 木、アクリル絵の具、木炭、シリコン
(c)Izumi Kato
写真提供:東京都現代美術館
Photo by Keizo Kioku
本展覧会のタイトル「人へ」について、加藤は、「大きな話で、アートは人間のためにあるだろうし、人間が勝手にやってることだし、僕は人間だし、人間に興味があるし、まだ人間に期待してるし。僕は人間というくくりに対して手紙を書いているようなものかな?」と語っている。
だからこそ、あの生きものたちが、どこか愛らしく、また写し鏡のように見る者を捉え、人間の本質的な存在そのものを直感させるのだろう。
2年ぶりの個展となる本展では、加藤がじっくりと育ててきたその「生きもの」「人のかたち」が、はっきりとした輪郭線によって描き/彫り出される。
第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際企画展「Think with the Senses -Feel with theMind : Art in the Present Tense」に招待作家として参加するなど、国際的にもますます注目が高まる加藤泉の最新作に期待は募る。
ARATANIURANO(アラタニウラノ)
東京都中央区新富2-2-5 新富二丁目ビル3A
TEL:03-3555-0696